「彼女がいるのに合コンに行く男をどうおもう?」

珍しく屋上なんかに呼び出されて内心ちょっと嬉しい(ついでにちょっとドキドキも)していた俺としては心底がっかりというか、効果音でいうならまさにガーン、四字熟語でいうなら意気消沈。もしかしたらもしかするかもと思って6時間目の授業はろくに聞けなかったというのにまったく損した気分である。プライドが許さないがあとで源田にノート借りないといけない。

「聞いてんの佐久間」
「聞いてる」

失恋の報告を待っていた俺としてはまあまあ嬉しいニュースではある。俺のアドバイス次第では奴らは別れるかもしれない。

「別に合コン行ったからって浮気したとかそういうわけじゃないんならいいんじゃないのか?仲のいい友達に人数足らないから呼ばれただけかもしれないだろ。ちゃんと本人に確かめたのか、そこんとこ」
「ま……まだ……」
「じゃあまだ怒るのは早いだろ。あ、聞くならメールや電話より直接会った時にしろよ。その方が嘘はつかれにくい」
「う、うん、そうする……」

俺は俺が嫌いだ。
自分でいうのもなんだが、この女に優しすぎる自分が嫌いだ。なんでこんなアホの恋愛相談に毎回毎回付き合ってやって助言してやって仲を取り持ってやってるんだ。こいつと彼氏がうまくいったって俺にはなんのメリットもない。虚しいだけだ。それでも、こいつが笑っていられればいいなんて思ってる俺がいて、それもまた嫌だ。考え方が恋する女子みたいですごく嫌だ。

「佐久間ごめんね、いつも」
「謝るなら相談に来るなよ」
「……だってこんな話佐久間にしかできないし」
「女友達は」
「妬まれるからやだ」
「おまえの彼氏人気あるもんな」
「そうそう、もういつ誰にとられるかわかんなくて大変」

不安がることなんかなにもないと思うけどな。なまえの彼氏を好いてる他の女子たちよりずっとずっとなまえの方がかわいいのだ。事実、なまえは今の彼氏にベタボレされて、熱烈な告白を受けて付き合いはじめたのだ。それからもう半年近く経つが、いまでもどちらかというと彼氏の愛の方が大きいと思う。
俺はたまに考えることがあった。もしあのときなまえに告白したのが、俺だったら?なまえはいったいどうしただろう。そのときからそれなりに仲はよかったから、もしかするとオーケーされてたかもしれない。そう思うとなんだかみじめだった。好きな女に好きな男との相談を持ちかけられ、1から10まで真面目に考えてやる俺。ほんと、優しすぎる。奪ってやりたい、そう思うのに、なまえの泣き顔を想像しただけで苦しくなった。……だからどこの乙女だ俺は。

「なまえはあいつのこと好きなんだろ」
「え?……うん、まあね」
「じゃあ大丈夫だ」
「……佐久間はやさしいね」

あーあ、さっさと諦めればよかったのに、なまえが頼ってくるのをいいことにそのままずるずるとこんな変な関係を続けている。ほんとのところ、俺といるときのなまえがあまりに無防備なので、キスしてみたいとか、押し倒してみたいとかいう衝動にかられることもある。そのたびに俺は我慢に我慢を重ねてきたわけだけど。だってなまえは俺のことを仲のいい友達、または相談役くらいにしか思っていないのだから、そんなことをしたら嫌われるのはわかっている。だからそんなこと絶対しない、しない、しない。つもりだった。

「さ、さく、ま?」

フェンスを背に逃げ場をなくしたなまえは怯えた目で俺を見る。……俺は何をしてるんだろう。嫌われたくないんじゃなかったのか。一生仲のいい友達でもなまえが彼氏と幸せならそれでいいと思ってたんじゃないのか。自分のなかの矛盾に吐き気がした、だけど身体をとめられない。

「前言撤回だ、なまえ」
「へ」
「彼女に黙って合コン行くような男は、最悪」
「さくま、なに」
「別れろよ」

おまえが悪いんだ。俺だってそんな人間できてない。もう半年も我慢した。限界だ。嫌われたっていい、なまえが欲しかった。ひとりじめしたかった。彼女の笑顔も、彼女との時間も、全部手にしていたかった。突然現れてなまえを奪っていったあいつが憎かった。俺が告白するはずだったのに。

「待っ、やだ」
「待たない、なまえ、好きだ、おまえが、ずっと」
「さく、」

先に酷いことをしたのはおまえの方だぞ。

言って、それから、キスをしたら、頬が濡れてひやりとした。俺のものかなまえのものか、わからなかったけど、それはたぶん涙だった。カッターシャツをつかむなまえの手のひらが震えていて、同じように俺の心も震えていた。馬鹿、馬鹿、馬鹿、好きだ、なんで気づいてくれなかったんだ。あんなやつより俺の方がずっとずっと前から好きだったのに、なんで。





20100709



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