「あ」

廊下の先の方に、見慣れた赤髪が見えた。あの重力を無視した超次元ヘアーはやつしかいないだろう。

「おーい、はるやー!!」

どたばた走って呼びかけたら、わたしに気付いた晴矢は何故か全速力で逃げ出した。ええっ、なにその反応、地味に傷つく!てめぇ、わたしのポジションがディフェンダーだからってなめてんだろ!確かにわたしはドリブルやパスやシュートはすっげー下手だけど、スピードなら負けねえぞ!!雷門イレブンの疾風ディフェンダーとかなんとかのロン毛にも負けねえぞ!!この足のおかげでいたずらしたあと逃げきれてたんだぞ!

「どりゃあっ!!」

あと1メートルというところで勢いよくジャンプして飛び付いたら、突然のことに対処しきれなくてバランスを崩した晴矢と共に廊下に倒れ込んだ。あ、超いてぇこれ。手が折れるかと思っ

「っにすんだよおまえは!?アホか!!顔打っただろがバカ!!」
「あほなのかばかなのかはっきりしてよ」

ぱかんっ、といい音がしたなあと思ったら頭が痛くなってきた。叩かれた。ちくしょうはるやてめえたんこぶなったらどうしてくれんの。あ、わたしも晴矢に突進して倒しちゃったし叩かれても仕方ないか。そりゃそうだわたし。いやだって必死だったんだもんさ。なんか知らんが超逃げるから

「あ、そうそう、わたしあんたにちょっと話があったの」
「話題転換はやすぎるだろ」
「あのね、風介のことなんだけど」

風介の名前を出したとたん晴矢は血相を変えた。あ、やっぱり喧嘩したのかこの子たちは。いまも仲直りしてないのかな?だとしたらわたしがうまく働いてはやく仲直りさせてやらねば などと考えていると、晴矢の乾いた手のひらがわたしの手首をがっしりと掴んだ。うわびっくりしたなあもう。なんだ。

「来い」
「は、 え、ちょっと」

ぐいぐい引っ張られて、辿り着いたのは晴矢の部屋だった。わたしを床に放り投げて、晴矢は鍵を閉めた。え、なんなのこのシチュエーション?汚い汚いと思ってた部屋は見違えるくらい整頓されていてびっくりしたのだけど、いまはそれどころじゃない。晴矢がわたしの上に跨がってきて、段々顔が近くなって、え、うそ

「あいつになに聞いた」
「な、なんにも聞いてない、すきなこのことで晴矢と喧嘩したとしか」
「へえ?」
晴矢はなんだか、わたしを嘲笑うような、半分怒って半分呆れたような、不思議な顔をしていた。それはわたしを怯えさせるには十分の迫力を含んでいて、身動きができない。

「は、はる、や?な、なにを」
「床じゃ痛いよな」

晴矢はわたしの言葉を無視して、そう呟いたあと、軽々とわたしの体を抱きかかえ、ベッドの上に落とした。なにするきなの、と言う前に唇が塞がれてしまって、舌まで入れられて、言葉はくぐもった音にかわる。

「……っちょ、は、…る、っん」

じたばたもがいてみたけれど、高校生の男の子にわたしがかなうはずなくて、両手が頭の上で束ねられて晴矢の左手に押さえつけられる。晴矢のキスは酷く情熱的で、激しくて、炎に焼かれてるみたいに、熱い。息が苦しい。目尻から涙が溢れた。ねえ晴矢、なんでこんなことすんの、あんたもすきなこいるんでしょ?風介もおんなじ子すきだって知って、思わず殴っちゃうくらいすきなこが。

「っはぁ、は、……っ、はるや、」
「……おまえ、ずっと前から風介がすきなんだろ?気付かれてないとでも思ってたか?残念だったな、俺も風介も知ってるよそんなこと」
「な、なん」
「でもな、風介はおまえのこと幸せにする自信がないんだってさ。だから俺は言ってやったんだよ。いつまでもそんなんなら俺がもらっちまうぜって。そしたらあいつ俺を殴りやがった。渡さない、渡したくないなんて言ってたよ。風介のくせにな。生意気だよな。マジむかつくわ」
「……晴矢」
「俺はさ、おまえの気持ちをあいつがちゃんと受け止めてやるなら、それでいいと思ってたんだよ。おまえらが幸せならそれでいいと思ってたんだよ。あいつがおまえを大事にできるなら俺はすっぱり諦めておめでとうって言ってやろうと思ってたよ。けどな、無理だ。あいつ、でも自分はおまえにつりあわないとか言い出した。晴矢の方がなまえを笑わせてやれる、晴矢の方がなまえを幸せにできるって、言うから、俺はほんとにその通りだと思ったさ。渡したくないなんて言って殴っといて、結局自分はだめだとか、おまえの気持ちを知りながら言うんだぜ?ひどいだろ。なあなまえ、おまえさ、知らなかったかもしれないけど、俺はずっとおまえが好きだよ。たまらないくらい好きだよ。今すぐめちゃくちゃにして俺だけのものにしたいくらい、好きだ。愛してる。風介にはやりたくない。なあおまえ俺をすきになれよ。あいつなんかよりよっぽどおまえを幸せにできるよ、自信ある」
「は、…晴矢、……うそ、」
「嘘じゃない。好きだ」

好きだよ、なまえ、おまえが。

両手を押さえていた手はふわっとはなれていって、わたしは別にどこも痛くないのに、ぼたぼたぼたぼた涙を溢す。そんなの、……そんなの、知らなかった。わたしの想いがバレてることも、ふたりがわたしを好いてくれていたことも。晴矢が、こんなにわたしのことを、想ってくれてるなんて、考えたこともなかった。それに、さっきのキスだって、わたし、びっくりしただけで、嫌じゃなかった。風介が好きなはずなのに、晴矢にあんなキスされても、嫌じゃなかったのだ。晴矢は友達だ。そう割り切ってきた。だいすきな、友達。それ以上でもそれ以下でもない、だけど。晴矢はわたしをそんなふうに見てたわけじゃなかった。女の子として好きだと思っててくれた。でも風介への勝手な恋心を何も言わずに応援してくれていた。

「晴矢、……わたし」
「…別に今すぐ答えなくてもいい。ゆっくり考えたらいい。俺は待ってやる」
「わかった。ありがとう」
「……さっきは悪かったな」
「え?」
「突然あんなキスしたりして。ずりいよな、俺。ごめん」
「あ…、ううん。いいよ、だいじょうぶ」

さすがに、嫌じゃなかったとは言えなかった。
晴矢の言う通り、ゆっくり考えよう。わたしの恋のこと。ちゃんと考える。風介も晴矢も同じくらい大事。同じくらいすき。じゃあわたしはどちらと幸せになりたいのか。





薔薇向日葵と揺れる蒲公英
20100321










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