「風介!」
「……ああ、君か」

顔を上げた風介は笑ってはいなかったけど、なんだか嬉しそうに見えた。なんかいいことあったの?ときけば、予想通り、別に、と返ってくる。公園のベンチに腰かける彼の足元には、使い古されたサッカーボール。ああ、練習してたんだ。

「風介」
「…ん」
「あれ、もしかしてねむい?」
「少し疲れただけだよ」
「そう?……帰ろうよ、風邪引くよ。風介いつも薄着だし」
「暑いのはきらいだ」
「夏だからって調子乗ってる子が夏風邪引くの。ほら帰るよ」
「……君は私の母親か」

ぼそりと呟いたあと、彼はやはり動かない。そんなに疲れてるんだろうか?
なんならおぶって帰ろうか、と声をかけたら、できないくせにと冷ややかに言われた。うんまあ今の歳じゃ体格的に無理だけども。

「ねー風介ー日が暮れるよー」
「……そういやなんで君は外にいるの」
「ん?シャンプーのストックなくなったから買いに行ってた」

手に持っていた薬局の袋を見せると、風介はああ、と力なく呟いた。ほんとにどうしたんだろ?不安になって、なにかあるなら話してね、ちゃんと聞くから、そう言ったら、なんだか虚ろな目で風介がわたしを見上げる。「長くなる」「いいよ」「そしてつまらない」「うん」「たぶん笑えない」「風介の話が笑えたことってあんまりないと思うんだけど」「それもそうだね」「で、なに。どうした」風介の隣に座って顔を覗きこんだ。「……晴矢と喧嘩した」「あ、え、まじで」口喧嘩?それとも殴りあった?聞くと彼は目を細めて、前者で決着がつかなかったから後者もやった、と言う。……これほんとのはなしなのかうたがわしいんだが

「なまえさん」
「へ、ああ、はい。なんだい風介くん」
「初恋というのは叶わないものなのかい」

……はい?

「いやまあ世間一般ではそう言われてるけど幼なじみで結婚したひととかも大勢いるんだし必ずしもそういうわけでもないんではないかとわたしは思いますけれども」
「そうか」
「…………風介すきなこいたの?」

わたしが目をまん丸にして聞いたら、まっすぐ前を向いていた風介がわたしの方を見た。晴矢と喧嘩、それも殴りあった、っていうだけで十分驚きなのに、こうも爆弾発言を繰り返されてはわたしも心臓がもたない。というか正直胸がいたい すごくいたいなんだこれ これが失恋というやつかな風介よ。おまえ、乙女の純情踏みにじったかわりにぜったいすきなこの名前はかせてやるからな

「どうだろうね。すきだといえばすきだし、きらいだといえばきらいだ」
「なんだそりゃ」
「それで今日、晴矢に言われた。いつまでもそんなんなら俺がもらっちまうぜ、って」
「あ、晴矢もおんなじ子がすきなの?だから喧嘩したんだ」
「そんな所だね」
「……その子はさ、風介と晴矢、どっちがすきなの?」
「さあ?知らないよ。多分晴矢じゃないかな」
「え、なんで」
「晴矢といるときの方が楽しそうだ」

……へえ、

風介ってそういうの考えたりするんだ。誰かのことで悩んだり辛くなったりするんだ。いやまあ当たり前だけどさ。宇宙人じゃなくて人間なんだし。
わたしは失恋したというのになぜか気分が軽かった。いつも見れない風介が見れたし、それがなんだか妙にかわいいし。……よし、決めた!

「風介、わたし風介の恋応援するよ!だからがんばって!」
「……いらないよ。別に君に応援されたって何も変わらないから」
「ええっいやたしかにわたしに縁結び効果とかはないけれども」
「そういう意味じゃない」
「え、じゃあなんで、」

唐突に風介が頭を肩に乗っけてきて、わたしはおおいにびっくりしてしまって次の言葉を紡げなかった。ななななな、なに

「あ、これ意外といいんだね。君がいつも乗せてくるからどんなものなのか気になってたけど。なかなかいい感じだ」
「ふ、風介、こういうのをその子にやりなさいよ」
「……そうだね、私も出来ればそうしたいけど」
「相手、お日さま園の子なんでしょ」
「私と接点がある女はそれくらいだ」
「学校では硬派だもんね」

あ、いつもか。なんて、他愛ない会話をしながらもばくばくばくばくと脈打つ心臓を、わたしは止められない。これ聞こえてんじゃないのか。肩なんて、心臓けっこう近いし。

……なんでもないように振る舞ってみたけどやっぱり、むねのあたりがじくじく痛む。すきなこ、かあ。だれだろうな。ダイヤモンドダストのメンバーか?アイシーちゃん?クララちゃん?リオーネさん?みんなかわいいよね。ダイヤモンドダストはみんな美形だ。特にガゼルが。風介が。なんて、ね、むなしいなわたし。初恋ってやっぱり叶わないのかもしれないよ風介。だってほら、わたしの初恋もいま、終わった。誰に気付かれることもなく、終わっちゃったよ。

「アイシーちゃんクララちゃんリオーネさんレアンちゃんボニトナさんバーラちゃんキーブさんクィールちゃんマキュアちゃんクリプトさんモールさんリームさんパンドラさん、……あ、わかったウルビダさんか!!確かにすっげー綺麗だよねわたしも憧れてんだあのひと」
「勝手に決めるな」
「じゃあ教えてよ」
「君には教えない」
「どうして」
「五月蝿いから」
「おとなしくするよ」
「関係ない」
「風介がうるさいって言ったんじゃんか」
「五月蝿い」
「ひどいな」
「応援するなら、晴矢の方にしたらいい」
「なんでよ」
「晴矢の方が好きなんだろう、君は」

……わたしは自分の国語力のなさが憎いよ。なんだか意味ありげなことを言われた気がするのにさっぱりわからん。



平行線上のリア
20100321











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