お日さま園というのは、かの有名な吉良財閥の社長である吉良星二郎が、身よりのないこどもたちのために建てた施設である。わたしも風介も晴矢もここで暮らしている。もう義務教育は終わったのだし、いつまでも園に居座るわけにはいかないから、アルバイトをして、ある程度お金が出来たら出ていくつもりだ。と言っても1ヶ月の給料なんて知れているし、独り立ちできるのは何年先になるかわかったもんじゃない。吉良星二郎――わたしたちの父さまは、それでもいいと言ってくれた。

もっとも彼は数年前に犯した罪を償うため、いまはまだ刑務所のなかにいる。

『星の使徒研究所』なんてものを作り、お日さま園のこどもたちを使って、自分の実の息子・吉良ヒロトの命を奪った外国に、戦争をしかけようとしていたのだ。ハイソルジャーになったわたしたちとその技術を、財前総理に売り込んで。風介や晴矢もその計画の一部だった。

彼らは運動神経がよかったから、それぞれがチームのキャプテンに選ばれて、父さまの最終兵器『ザ・ジェネシス』の称号を奪い合っていた。結局ジェネシスになったのは、基山ヒロトくんという、父さまの一番お気に入りの子が率いたチームだったけど。

ちなみにチームといっても、父さまはこどもたちに銃とかナイフとか、そういうものを持たせたわけじゃない。父さまが彼らに与えたのは、サッカーボールだ。吉良ヒロトはサッカーがすごく好きだった。だから父さまは、サッカーで世界に訴えたのだ。

もちろんお日さま園のこどもたちみんながサッカーが得意だったわけではない。わたしもそのひとりだ。運動神経はまるでなかった。父さまはそんなわたしたちに、『エイリア石』という不思議な石をくれた。隕石の欠片らしく、人間の持つ身体能力を高める力があると言われた。まわりの子たちはすぐにパワーアップした。

わたしはなんだか怖くて、石を持たずにサッカーの練習をした。もちろんみんなみたいに上手くはなれなかった。そのうち、ジェミニストームとイプシロンっていう名前のチームが出来た。そのふたつは、風介の率いる『ダイヤモンドダスト』と、晴矢の率いる『プロミネンス』、そしてヒロトくんの率いる『ガイア』の練習相手に使われた。

わたしはどのチームにも属さないかわりに、マネージャーみたいな仕事を黙々とこなした。本格的に計画が始まったとき、わたしたちは『宇宙人』という偽の肩書きと、もうひとつの名前をもらった。
素性がバレないように、父さまがくれたわたしの名前は、グラジオラス。ちょっと長いのでお日さま園、いや、『エイリア学園』のこどもたちはそれを略してララと呼んだ。わたしはその名前も、本名と同じくらい気に入っている。風介はガゼル、晴矢はバーン、ヒロトくんはグランという名前をもらった。小学生のとき仲良しだった緑川くんはジェミニストームのキャプテンになって、レーゼと呼ばれていた。

わたしたちは父さまのために戦った。父さまはわたしたちをもっと強くして、世界にその力を示そうとしていた。だから、フットボールフロンティアというサッカーの大会で優勝した、東京の雷門中学サッカー部に宣戦布告した。

ジェミニストーム、イプシロン、そしてジェネシス。

わたしたちが強くなるたび、雷門イレブンももっともっと強くなって、またぶつかった。結局エイリア学園は雷門イレブンに負けちゃったけど、雷門イレブンの監督をつとめていた父さまの実の娘の瞳子さんと仲直りして父さまは罪に気付いて、改心してくれた。力の誇示のために全国の学校の校舎を破壊してまわった罪もぜんぶ、父さまが背負った。父さまがいなくなって、わたしたちはエイリア学園からお日さま園に戻った。父さまの代わりに瞳子さんが来てくれるようになって、わたしたちはもとの、ただのこどもに戻った。そう、ただ、サッカーがすきなこどもに。






「うわ、ヒロトのやつまた映ってやがる」

晴矢が嫌そうに声を上げたので、わたしは風介の部屋に備え付けられた小さなテレビに目を向けた。たったいまシュートを決めた赤い髪の男の子が笑顔で映っていた。基山ヒロト、元ジェネシスのキャプテンで、わたしたちの仲間だ。

「この調子じゃ、雷門高校は全国優勝しちゃいそうだね」
「だって、雷門中のサッカー部の奴ら、ほとんどここに入ってんだろ。宇宙人に勝っちまった奴らが高校生なんかに負けるかよ」
「宇宙人、ね」

わたしがくすくす笑うと、晴矢は気に食わなかったのかふんと鼻を鳴らした。
ジェミニストームやイプシロンと、ダイヤモンドダスト、プロミネンス、ガイアの3チームの違うところはひとつ。エイリア石でパワーアップしてるかどうかだ。風介や晴矢やヒロトくんは、エイリア石なんて使ってない、生身の強さだ。彼らはほんとうにサッカーが上手い。雷門イレブンの元キャプテンの円堂くんを気に入って、東京に行ってしまったヒロトくんなんか特に。

「そういや、なんでふたりは高校でサッカー部入んなかったの?ふたりならぜったい全国大会行けただろうに」
「はあ?」

晴矢が呆れたように言うのでわたしは顔をしかめる。なんだよと思って、風介くんの方を見たら、彼もたいへん呆れた目でわたしを見ていた。なんだこれいじめか。

「ばかだなおまえ。俺らがサッカー部なんか入ったらたちどころにエースだっつうの。2、3年が可哀想だろーが」
「なんだその上から目線」
「それに俺別に全国とか興味ねえし」
「嘘つけ。ほんとはヒロトくんがうらやましいんじゃないの」
「はあ!?ふざけんな、んなわけあるか馬鹿!!!」
「ムキになるから怪しいの。テレビに映りたいんじゃないの、あんたほんとは」
「誰が!!」

ついにキレたらしい晴矢がつかみかかってきたので、わたしは慌ててそれをかわして風介のとなりに逃げこんだ。風介はまわりで暴れられるとすぐ怒るので、晴矢は手が出せなくなるのだ。へへーんだおばかはるや。やれるもんならやってみろ。べーっと舌を出すと晴矢はあからさまに顔を真っ赤にした。ウワア怖い。しばらく風介から離れないでいようっと。

「……なまえ」
「うん?なに風介」
「そういう君こそなんでサッカー部に入らなかったんだ」
「え……わたし?」

かけられた言葉が意外すぎて数秒間かたまってしまった。え、いやいやわたし?なんで?風介の考えてることはよくわからないときがあるなあ。

「君はとてもサッカーが上手いって、私は知ってるよ」
「ええ、いや、ぜんぜんだよ?エイリア石持ったってジェミニのベンチにも入れないくらいド下手でしたよ」
「……エイリア石持って練習したことないくせに」
「え……、なんで知ってんのそんなこと」
「見てたからわかる」

ど、どういうことだ?つまり風介は、わたしがエイリア石の力に怯えて、父さまや研崎さんの言いつけを守らずに、身に付けてなかったこと、……知ってたの?

「あの石は素晴らしい力をくれる。でも君はそんなものに頼らずに自力で上手くなった。私達みたいに強化特訓もせずに、あんなに。……君は凄いよ」
「あ……うん、ありがとう。でもわたし、サッカーはやっぱり見てる方が好きかな。だから、ね、サッカー部入ったらいいのに」
「……君がまたマネージャーをやるなら、考えてあげてもいい」
「ほんとに!?」
「おいなまえ、おまえバイトするんじゃなかったのかよ」
「あ そうだった」

仕方ない、諦めるしかないか。
……サッカーしてる風介と晴矢、わたしはすごくすきなんだけどな。





これまでこれから
20100321











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