出会いはいつも偶然なのに、別れはいつだって必然だ。わたしはそれが悔しくて夜が明けるまでとにかく泣きわめいてみようと思ったけれど、やつには聞こえないだろうし全く無意味だ。だがしかし泣きわめいてみた。わんわんどころかうおんうおん泣いた。もはや女子じゃない泣き声だった。わたしがこんなに深く傷ついているというのに、隣にいる南雲は心からうざったそうな顔をして真っ暗な空に流れていく雲なんかを見てる。声をかけてきたのはお前なんだから最後までちゃんと相手をしなさい。

「…いつまで泣く気なんだよ」
「夜が明けるまでよ。日が昇るまでずっと泣いてやるんだから」
「俺帰りたいんだけど」
「何よ俺でよかったら話聞くぞーなんて言ってきたくせにやっぱり嘘だったんだそうよね南雲があんな優しいわけないもんね」
「お前うぜーな超殴りたい」
「いいわよ殴りなさいよほらあっけなく失恋したこのブスを殴りなさいよ」
「(マジうっぜえ)」

南雲はわたしのやつれようにだいぶ呆れたみたいで、はあぁ、とふかくふかくため息をついた。…いやだって仕方ないでしょ。女の子にとって失恋というのは痛いくらいじゃすまされない傷なのよ。この痛みが続くならばむしろ死んでしまいたいと思っても過言ではないくらいの深手なのよ。わかる?わからなさそうだよなあ南雲女の子にぜんぜん興味ないもんね。わたしは女の子と思われてないから声をかけてもらえたのだ。町が見おろせて、上には満天の星空がセットされているここは、くだらない遊びをしていたとき南雲と見つけた秘密の空き地。
晩ごはんのあとサッカーの練習に来た南雲は偶然、泣きわめくわたしに出会った。

「…風邪引くぜ」
「誰が夏に風邪をひくか」
「お前馬鹿だから引くだろ」
「南雲に言われたくない」
「俺はお前より成績いいよ」
「五十歩百歩だ」
「うるせえ」

だいたい、失恋した女の子を見たらこう、優しく慰めてあげるとか、だいじょうぶっつって肩を抱いたりとか、もっといろいろあるでしょうが。それをこいつは、わたしが涙ながらに最愛の彼氏と別れた理由を話しても適当に相づちをうつばかりで、聞くって言ったくせにまったく興味なんてなさげで、話し終わって意見をきいたら「まあお前の色気不足だろ」ときたもんだ。さいあくだ。南雲晴矢、おまえはさいあくだ。

「さいあくだ」
「なにが」
「南雲が」
「俺かよ」
「当たり前でしょ」
「なんでだよ」
「お前には慰めの言葉とか肩を抱いてやる優しさとか胸をかすとかゆう思いやりとかが皆無だ」
「なに、お前慰められてえの?」
「…さいっあくだ」

南雲のばかばかしんじゃえ。わたしたちの友情もこれまでさ。彼氏の次は友達まで失うのねわたし。いや南雲が悪い。デリカシーの欠片もない南雲がぜんぶ悪い。ばかやろうだいっきらいだどこへなりといくがいいさ!と思ったので言ってやろうと思い「ば」と口に出したところで南雲の手が左肩を掴んだのでびっくりした。たいへんびっくりした。そのままぐい、と抱き寄せられたので声なんて出なくなってしまった。

「こうすりゃいいの?」

なんて照れたようすもなく聞かれたけれどわたしは答えられなかった。すると南雲はすこし拗ねたような声で「お前が言ったんじゃねえかよ」と言った。うん言ったけどまさかほんとにされるとかこれっぽっちも思ってなかったんです。

「な、なぐも」
「は?なんか言った?」
「い、や、…えと、なんでもない」
「なんだよそれ」

キャミソールから出てる肩に触れてる南雲の手がいつもよりひんやりしてるような気がした。いやいや、南雲って低血圧のわたしよりかなり体温高いから、そんなことないと思うんだけど、じゃあなに。わたしの体が熱いのか?いやなんでわたしが熱くなんなきゃならんのだ。南雲ごときに。

「なあ」
「…なに」
「お前、そいつのことそんなに好きだったの?」
「……まあね」
「へえ」
「なによ」
「いや別に。そいつずいぶんもったいねーことすんだなと思ってよ」

南雲の声はいつもみたいに荒々しくなくて、むしろあたたかくてやさしくて、信じられないけど胸が高鳴ってしまった。なんだこいつ。南雲のくせに。

「…どういう意味?」
「自分で考えろ馬鹿」
「考えたってわからないから馬鹿なのよ」

平然と言い返したらまたため息をつかれた。普段ならイラッとするはずだけど、肩を抱かれているせいで耳にかすかに息がかかってどきりとした。ほんとなんなんだこいつ。わざとか。たちわりぃな。こんなん誰だってどきっとしちまうぜバーカ。別にお前だからとかじゃないぜバーカ。…一応言っとくと、フラれたおんなというのはたいてい少しの間自暴自棄になって口が悪くなります、おしとやかなわたしはいつもこんなばかばか連呼する子じゃありません。つーかばかっていうやつがばかです。つまり南雲が馬鹿です。

「おい」
「なんだよ」
「……いい加減機嫌直せよ」
「機嫌なんてとっくの昔に直ってる」
「どこがだよ」
「そうねしいていうならぜんぶ」
「嘘つくな。…もう終わった恋だろ」
「ええそうよわたしは新しい恋をすると決めたわ!今度はうざいくらい毎日わたしを好き好き言ってくれる人を好きになるの」
「趣味わっる てかお前なんかを好き好き言う物好きなんざそうそういねぇよ」
「あらいるわよ世界は広いもの」
「は?狭いっつの」
「なんで言い切るのよ」
「だって俺お前好きだし」

時間が止まったように感じる、というのはこんな感じなのだろうか。肩ごしに南雲を見上げたらなんだか真剣な目をした南雲がいて、ほんといつもなら「ギャハハハハなにその顔まじうける」とかわたしはほざいていたと思うんだけど、状況が状況で、わたしだってそこまで空気が読めない子じゃない。だからちゃんと、目をまんまるにして、すこしだけくちもとで笑って、問う。

「いまなんて言っ」
「二回も言わねえよめんどくせえ女だな。だからフラれんだよブス。性格ブス。まじ可愛くねえありえねえ」
「は」
「こんなブス好きになるなんてまじで大迷惑だわ俺の人生における最大の誤算だわ。おいお前責任とれよブス」

そういえば南雲は可愛いと思ってる子にほどブスブス言うって前基山くんが言ってたような、いや、そんなまさかね。

「南雲」
「あ?んだよ」
「責任って…どうしたらいいの?わたし」
「…とりあえず嫁に来やがれ」

なんて横暴なわたしの未来の旦那さま。




豪速球右耳直撃事件
20100403






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