最初惹かれたのは顔でも性格でもなく、色素のうすい細い髪。ぶわっと春特有の風が吹いてなびく彼の髪に手を伸ばしたのはほとんど無意識だった。怪訝そうな色を含んだ片方の目がわたしを射ぬいたとき色々終わったなあ、と思った。この学園での生活とか

「何か用か?」

紡がれる言葉。さらさら揺れる髪。女のわたしより綺麗。

「髪」
「髪?」
「きれいだなあと思って」

ほとんど話したこともない。同じクラスだからといって接点はなかった。元々わたしはそんなに積極的な方でもないから、男子はおろか女子ともあまりしゃべっていない。まあ新学期が始まったばかりということもあるのだけれど。

「佐久間くん」
「…なんだ?」

呼んだものの、話題なんて考えていなかった。軍服のようなデザインのうちの制服をしっかりと着こんだ彼は、何も言わずにわたしの言葉を待ってくれている。

「わたし、あなたと話したこと、ぜんぜんないけど」
「うん」
「それでも、あなたが好きって思ってたら、変かなあ」

眼帯をしていない方の目がぱちくりと動く。…そりゃまあ、急にこんなこと言われたら、誰だって驚くよなあ。佐久間くんがどういう人なのかも、わたしはまだよく知らないけど、怒らせたりしてないだろうか。あまりに唐突で身勝手な告白だから。
佐久間くんの形のいいくちびるが開いたとき、わたしは心臓が早鐘を打ち始めたのを確かに感じた。

「変じゃない」

春の空気より柔らかな笑顔。

「じゃあまずは友だちからはじめてみないか」

そっとわたしの頭を撫でる佐久間くんの手のひら。ああ好きだ好きだと思ってしまったから、やっぱりまぎれもなくわたしはあなたに恋をしているみたいだよ。




春風の中でつかまえた恋


(どうか届きますように)






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