一週間。ずうっとかけることのなかった背中にかけよって軽く叩く。ゆっくりと振り返った能面じみた無表情が、おれをみるとわずかにほころんだ。それが嬉しい。

「ハロウ」
「モウニンだよ小太郎。ハロウは昼さ」
「ありゃりゃ」

 間違えた。言いながら顔を覗き込めば、目が合った瞬間に一緒にふきだした。おんなのことかこいびと同士がよくやってるやつだ。

 赤司は肩にひっかけた重そうな、きっと教科書のいっぱい詰まってるんだろう通学鞄の外ポケットに親指だけひっかけてぶらりぶらりと歩いている。おれも横に並んで後校舎へと歩きながら、朝だから眠いんだろう、丸まった赤司の背中をもう一発叩く。
 そうしたら面白いくらい、今度はしゃっきり伸びるんだから。

「赤司ぃ、一週間なにしてたんだよー」
「ちゃんと練習はしていたから大丈夫だよ、なまってない」
「そうじゃなくて!」
「あはは。ちょっとね、遊んでいただけだよ」
「遊び?」
「うん」

 旅行かなんかだろうか。赤司ならノリとかテンションとかで突発的に旅行に行きそうだし。そんでそのまま行き先も告げずにふらりと消えてしまいそうでもある。

「楽しかった?」
「新たな発見のある遊びだったよ。侮れないね、おままごとも」
「斜め上の遊びだった!」
「あはははっ」

 今日はよく笑う。朝なのにいつもよりも元気だし、足取りだって軽い。軽いままの足取りで放課後コートを駆け回るのかと思うと、おれもそこに居るのかと思うと、今からテンション上がってぞくぞくしてくる。赤司とのプレーは面白い。味方に居ても敵に居てもおんなじくらいにやばい。
 だから一週間どれだけ寂しかったことか。ずうっとずうっと、ハチ公よろしく待ってた。

 だからもう一度ふらりと居なくなってしまわないように、と。ことばをつむぐ。

「ねえ赤司っ」
「何?」

 約束なんかで赤司をつなげるとは思わない。律儀なやつだから果たしはするだろうけれど、それだけだ。
 だからこれは自己満足。

「明日、どっか行こうぜい。駅前のパン屋さん半額だってさ!すきだろー?あそこのパン!」

 一瞬ふっと、赤司はどうしてか黙ってしまって。明日とちいさくもごもごやってる。
 結構長い間のことだったからおれも焦れてきてもう一声行こう、と思って身を屈めた瞬間にぱっと、赤司は顔を上げた。
 そうして笑う。楽しそうに。

「良いね。ひとつ買ってよ、こたろーせんぱい」
「たーからーれたー!」

 けらけら赤司はほんとうに楽しそうに笑う。あんまりにも楽しそうだから、おれも釣られて笑っちゃう。
 明日のことを思った瞬間、口の中に広がった舌に馴染んだパンの風味に、胃の辺りからぐるると空腹を告げる音。胸はぽかぽかあったかくて、明日を思っておれの足取りも軽く弾む。

 また明日、と帰路につける。明日がある。それってすごい貴重なんだってこと、中学を卒業して初めて気がついた。
 そういやあおんなじようなこと、前に赤司も言ってたっけ。

「あれがいいな、チョコクリームのクロワッサン」

 明日は今度こそちゃんとモウニン、って赤司に声をかけよう。
 そうしたら赤司はするりと左右色違いの目を細めて、おはようと返してくれるに違いない。


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