砂糖菓子でもころがすような音をたてて赤司がわらいごえをあげる。およそはじめて聞くようなその音はどこまでもあまく、やはり芯から砂糖漬けだった。
そうして奇怪しな男は俺をみて言うのだ。久しいな、と。
「それ、どうした」
端的に伝えて左目をおおうようにはりつく白、眼帯をさししめせば、ぼろがでてしまうからねと意味の解らないことを言って赤司はまたくつくつと笑いながら肩を揺する。始終穏やかな調子の赤司と指示も何もない会話を重ねることもまたはじめてではないだろうか。けれどもこの男は久しいのだと言う。
解せない。ここまでつかみどころのないやつだったか。手をつないでいるようでいて、こちらから一方通行で赤司の内面をかきまわさせられて居るよう、な。
ふわりとあいまいだ。
「おまえたちは俺のひとみの色をどうやら忘れているようだけれど」
「・・・・・赤だろう?」
「どうだろうね――――違っていても気付かないくらいには記憶も薄らいでいると、おもうよ」
「何のはなしだ」
「ひとみの話さ」
答えているようで答えになっていない。すべての問いがはぐらかすような返答ですべてだいなしにされている。ふたつあるはずの目がひとつ隠されている彼はどこかアンバランスにおもえてつい、先を歩く背中にまとわりつくカッターシャツを掴みそうになり、慌ててゆびさきを引いた。
人間の身体にあるものすべてがふたつずつではないのだ。そう、追い詰められるような気持ちのままにひとみを暴く必要はないはずだ。何かに刺されてまぶたが腫れたりしただけなんだろうから。
必要はない、はずなのだ。
「おまえたちは強くなる」
「何だ、唐突だな」
「俺をひつようとしなくなる」
「・・・・・・唐突だ」
そのときに。と、赤司は足を止めて。少し後ろの俺をふりかえって、柔らかくやわらかく、ほほえむ。
「唐突だよ」
いつかこの指先が、こがれるようなおもいと共に目前の赤色を追うことがなくなると言う。穏やかに柔らかくえがおをたれながしたまま、赤司はそう言う。信じ切ることができないまま、まさかとそう言っても赤司はくつくつわらってそうだよと答えるだけ。
何もかもを知っているようなくちぶりにひそかに苛立った。
「まあ、いい。そんな日が来たとしよう」
「来るんだ」
「いいから黙って聞いておけ。・・・・そんな日が来たときは、俺がおまえを追わなくなった日ではないのだよ」
そうしてやっと、肩を掴んで引き寄せた。片目だけを見開いた赤司がぱちりとまばたきを飛ばして俺を見上げてくる。
だからあえて真っ直ぐ、
見詰め返した。
「俺がお前に並びたいと思ったから、追うことを止めただけだ」
力を込め肩を押さえつけて、静かに俺を見詰める彼のひとみを覗き込む。そのまま数拍。
「それは愉快な鬼ごっこだ」
どこか満足げに甘ったるく、あいまいなままの赤司はわらった。
花言葉/
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