※高+赤+黄/時間枠について深く考えてはいけないおふざけ



 吐く息は総じて白に染まる。クリスマス寒波、だとか何とか、とりあえず今年のクリスマスはクソ寒いと言うのに、どうして街にはひとが溢れ返っているのだろう。
 だと言うのにおれはどうして独り身なのだろう。

「・・・・・さっぶ」

 悲しくはないが、しかし、何と呼べばいいのだろう。わびしいと言う奴だろうか、この感情は。
 目の前を男女のふたり組みが通り過ぎる。カップルでは断じて無い、ふたり組みだ。ペア。少々、それこそ悲しい思考ではあると理解しつつも念じ続ける。あれはフォークダンスでたまたま当った的エンカウントを果たした男女だ。

 それでもイルミネーションのひかりと言うやつは平等にあたりを照らすらしい。家族連れにも、カッ、ふたり組みにも、ひとりのおれにも、ぴかぴかしながら降り注ぐ電飾のカラフル。安っぽい色。クリスマスだからだろう、サンタクロースの形をしているやつが張り付いている窓なんてのもある。
 やはりこんな日に、ひとの集まるようなショッピングモールに来ることが間違いだったのだ。家でおとなしくしていれば良かった、

 思い立ったら即行動、は自分の美点だとは思っているが、しかし、そうだイルミネーションを見に行こうと今日ばかりは思うべきではなかった。なんてったってクリスマスだぜ、クリスマス。正気かよおれ。

「・・・・あー」

 寒い。そう言えばマフラーはさっき震えていたちびのおんなのこにやってしまったのだった。あんまりにも寒そうにしていて、鼻真っ赤っかで、母親は別の母親と阿呆みたく盛り上がっていたからこどもが寒がっているのに気がついていないようで。そんな子と目が合ってしまってなお見過ごせるほどの極寒ハートは持ち合わせていなかった高尾君は健気にも、本来なら親がするべきこどもの体調管理ってやつに貢献してしまったのだ。
 まあ、良い。それ自体は構わない。ありがとう、ひらがな発音でふにゃりと笑われたときはうっかりストライクゾーンが広がりそうになったくらいだ。

 が、寒いものは寒い。
 だがちびの彼女は未だに申し訳なさそうにこちらをチラ見してくるのだ。ここでおれが震えまくっていたら、きっと彼女はマフラーを抱えてこっちにとてとて走ってくるに違いない。と言うか今にもそうしそうな勢いである。

 一応はフェミニストだと豪語しているおれがおんなのこに、いや幼女だけど、そんな気遣いをしていただく訳にはいかな寒い。やっぱり寒い。寒波舐めてたこれは酷い。

「落ちるよ」
「、え」
「だから、落ちるよ」

 こどばと共に背中の真ん中がとっと突かれて前のめりに倒れこむ、つまりおれは噴水の周りのほら何て言うの、ちょっとスペースがあるところねあそこ、に腰掛けていたから、直角に曲がっていた自分の膝に鼻をしたたかに打ち付けたのだった。
 これが結構な痛みを呼んで、目の前で電飾がちかちかと。畜生サンタクロースめ、何でファンシーな身体のわりに顔リアルに作りこまれてるんだよ怖いわ。

「あーあー何やってんの・・・・・」
「えっちょ、あ、あかし、?」

 呆れた調子でまたひとつ増えた色彩に、切れ切れになりながらようやっとひとりの名前を呼ぶ。動揺していることこの上ないおれとは反対に、それは酷く落ち着いたままあっさりと頷いた。赤べこもびっくりなレベルである。

「だけど。ごめんね、突然すぎたかな。ええっと確か」
「高尾くんっスよ」
「妙案だ」
「赤司っちごめんおれ案提示したんじゃないんだ」
「え」

 微妙な位置に右手を突き出して居た赤司がまた微妙な顔をしながら脇に居た煌びやかと漫才じみた会話を繰り広げ出す。確か、あの黄色いのは黄瀬で。と言うか赤司。
 赤司、と、黄瀬。キセキの。

「・・・・はっ?」
「高尾くんこんちはっス。何してんの?緑間っちは?」

 どうやら上を見すぎて背後から噴水に突っ込みかけるのを阻止してくれたらしい、ふたり組みは。これは間違いなく二人組みなのだろうふたり組みは。おれの目の前に回りこんできて、まるで自然に会話を始める。
 恐らくきちんと会話をするのは初めてのことで。
 て言うか、おれは赤司には一度盛大に負かされていて。

 ただそんなことは関係ないらしい、赤司、はやはり無表情だったけれど、黄瀬はフレンドリーに見せ掛けたいのか目を細めて笑みのスタンスを取っている。
 ただ目は恐ろしく据わっているんだが何だ。何なんだおれ何か邪魔したのか。もしかしておれを噴水落下から救ってくれたのは赤司の独断だったのか。

「きょ、今日はひとり、だけど」
「ええと、高尾。ひとりでイルミネーションか。また風情がありそうだな」
「ごめん風情は無かったかな!」
「あれっ」

 わびしさはあったけど。そっと付け足す。はいそこ決して悲しさではないここ高尾センセイテストに出したいと思ってるからラインマーカー五色くらいで強調しておくように。

「うーんと赤司っちあんね、おとこふたりも結構きついからね」
「、あれっ」

 この後パーティーでもするのだろうか、食材とラッピングされた袋を抱えながらも身軽に動き回りながら黄瀬と赤司は会話する。ちなみにおれはとっくに意思の疎通を諦めていた。だってよくよく考えたら真ちゃんだってわりと言ってること滅茶苦茶なのにキセキの世代の中じゃ一番常識有ったらしいんだぜ、つまるところ赤司と黄瀬は真ちゃん以上にぶっ飛んでるってことだろう。
 寒い。現実逃避でもあり、圧倒的現実であるのがまた悲しいところだ。寒い。

「そう言えば、ええっと」
「高尾くんだってば」
「えー。あー・・・・君、一緒に来る気は無いかい?どうせ暇だろう?」

 どうせ彼女は居ませんけどね。思わず言いそうになって慌てて口を噤んだ。だってそろそろ黄瀬くんマジ怖い。

「暇、ではあるけど、でもさー迷惑っしょ」
「んん、まー赤司っちがいいってんならおれは構わないけど」
「僕は高尾くん、君が良いと言うのならば是非にと思っているが」
「あ、えー?マジ?」
「あーマジマジー」

 やる気のないモデルを視界から除外して赤司に向き直れば、なんだってんだろう後光が刺して見えるレベルの微笑を浮かべていらっしゃる。赤司様万歳エース様が何だこの世は赤司様で回ってたいっけねうっかりしてたわ。

 しかし何故かはわからんがでっかい熊のぬいぐるみを抱えていたモデルはもう本気でおれには興味ないらしい、キャーキセクーン、アハハアリガトー、さっきから何が有難うなんだよと突っ込みたくなる流ればかりをエンドレスに繰り広げてやがる。
 きっと黄瀬はおれのようにひとりイルミネーションを眺めてわびしくなるようなクリスマスを過ごしたことは無いに違いない。

 残念ながら顔面格差がこの世界には存在していた。寒波に凍えろそんな制度。

「今からパーティーだから。メンバーはね、ええと、キセキの世代+アルファだ。例を挙げると宮地先輩」
「いや何してんのうちの先輩!?」
「青峰とグラドルかアイドルか揉めに揉めたあと友情が芽生えたらしい。仲良きことは美しきかなってやつだね」
「いやっえっ・・・先輩・・・・・」

 と言うかクリスマスパーティーと言えど、やっぱりと言うかおとこばっかりらしい。それは何と言うか寒い。この場が寒かった。ちょっと忘れてたけど物凄く寒い。
 良く考えたら噴水の傍って水辺だから余計寒いとかもあるんだろうか、否関係ないんだろうか。

「で、どうするの。来る?行く?」

 さらりとイエスオアハイの選択肢を与えられた赤司様はやはりお優しいようである。さすが!おれのような者にも選ばせてくれる!さすが!

「ああ、参考までにもうひとり例を挙げておくと、あー確か、パパ・ンバイ・シキさん」
「いや何・・・・誰!?」

 聞き慣れない音に反射的に突っ込んでしまった。パ、何だ誰だ。それこそ宮地先輩以上の衝撃だって脇を通り過ぎたカッふたり組みのおとこのほうがこっちを横目に見て今鼻で笑いやがったお前黄瀬より酷い顔してる癖に。

「・・・・涼太、誰だったっけ」

 その件の黄瀬に問い掛け、赤司は首を傾げる。
 呑気のおんなのこたちと談笑していた黄瀬はこちらに顔を向け、たのはいいけれどどうにも思い当たらなかったらしい、曖昧に微笑んで適当に数度頷いた。本当にこの場で赤司以外には興味ないらしく、おれのことは絶対に見ないままだ腹黒め。

「えー?あー?黒い人っスよ、確か」
「そうか有難う。高尾くん、青峰らしいよ」
「ええと高尾それ安直だと思うな!」
「だって行く先々で殺人事件な某不幸少年が主人公のアレの犯人役っていつも青峰っちじゃないっスか。で、それにそっくりでー」
「突っ込みどころ!過多!」



まだパーティーには行けません