■良く解らない黒+赤

2013 05.13 ( Mon )

「おまえは信じるか?」

 上げられた語尾の音が疑問を語る。まなざしだけがひどく静かにぼくを射抜いて、皮膚一枚ばかりで覆われている我ながら脆弱そうな頸を柔らかに絞めた。
 赤司くん。つくろうとしたことばさえ絞殺される。からからに干上がった舌が上顎にしなだれかかったままじょうずに動いてくれない。歯は噛み合わされないまま、ただかたくしろくくちの奥の方に居座っていた。

 目尻がゆるりと持ち上がって弧を描いた。不格好でいびつな笑顔を貼り付けて、赤司くんはぼくだけを映した硝子玉のような眼球を瞼の下でころりと転がす。いろちがいのそのひとみ、まなざしのあまりにもな透明さに、まっすぐさに、何とも言えないきもちのままに胸が震えた。

 おまえは信じるか、と、赤司くんは言う。こんどは問いではないのだった。

「たとえば僕がバスケットボールと言う競技がだいきらいだと、ここでおまえに伝えたとする。そうしたら、テツヤ、おまえは信じるか。僕のことばを正しいこととして受け入れるか」

 淡々、と。空気を震わせることもなく、ことばはただただこの場に落ちただけだった。
 語尾は掠れている。
 縋るような調子のその声はたしかに鼓膜を叩いたけれど、やはり、空気は震えないのだ。音を伝えるための役割を果たすのはたしか振動であった筈だと言うのに。

 目前で弛緩しきった赤司くんのからだがふと、傾いだ。倒れるのかと思ったけれどそんなことはなく、また、一本伸びた背骨だけで支えられてしまう彼のからだはもとのまっすぐに戻ってしまう。

「・・・信じるとか。信じないとか。そう言う次元のはなしですか」
「問うたのは僕だ。そうして、答えるのはおまえだよ」

 くちびるを噛む。血の味がした。
 まるで反射のように自然なことだった。

「信じるか信じないか。でしたよねえ、赤司くん」

 干上がった喉を舌が蓋をする。目の前でちかちかと光が弾ける。ぼくの喉は相も変わらず、赤司くんが締め上げていた。
 しぬのかな、と。
 頭を過ぎったのはばかみたいな思考だ。僕ではない、赤司くんのことだった。

「そんなの、」

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