ゆらゆら、ゆらゆら

「ねえ、いい加減に機嫌直してよ」
「別にリンに怒ってるわけじゃないんだからいいだろ。ほっとけよ」
「そんなこと言ったって…」

むすっとした顔でそっけなく答える片割れ。今日一日ずっとこんな調子だ。
別に八つ当たりされてるわけじゃないし、彼の言うとおり放っておいてもいいんだけど、これだけわかりやすく不機嫌になられるとこっちだって落ち着けない。
何やら黒いオーラを放出しているレンの背中には、彼がこんなに怒っている原因となった物体がゆらゆらと呑気に揺れていた。

(ああもう、マスターのバカっ!)

この状況を作り出した人物を思い浮かべて、私は思わず深いため息をついた。








2月22日。今日は世間一般では猫の日と呼ばれている。
別に祝日でもなにかの記念日なわけでもなく、ただの語呂合わせに過ぎないんだけど、マスターのテンションをあげるには十分だったみたいで。
目覚めた時には既に時遅し。マスターの特製プログラムによって立派な猫の耳と尻尾を生やしたレンが出来上がっていた。
そうです。本日、我が家の鏡音レンはいわゆるネコミミ男子ってやつなのです。

「くそっ、ふざけんなよ。あの変態マスター」

ここにはいない相手に悪態を吐くレン。これは相当ご立腹のようだ。
正直、そこまで怒ることでもないと思う。そりゃあ、寝てる間に勝手に体をいじられたのは嫌だったんだろうけど、特に害があるわけでもないんだし。
それに似合ってるし、可愛いし。
そう告げるとレンは「男が可愛いって言われても嬉しくねぇんだよ」って顔を真っ赤にして、余計に黙り込んでしまった。男心は複雑みたいだ。

(こんなに可愛いのになー)

改めて、いまのレンの姿を観察してみる。
ふわふわの金髪の上にちょこんと生えた三角形は、レンの苛立ちに呼応するようにぴくぴくと動いていた。
彼の背中を少し覗けば、ゆらゆらと忙しなく揺れる細長いしっぽが見える。
どちらもただの飾り物ではないようだ。

「耳、動いてるね。しっぽも」
「ん?ああ、そうだな」

私の声に反応するようにぴくりと震えるネコミミ。どうやら感覚も備わっているらしい。

(…………触ってみたい)

本当は朝から気になってしょうがなかったんだけど、レンがこんな調子なのでずっと言い出せなくて必死に堪えていたのだ。
でも、それもそろそろ限界が来ていた。

(ああもう我慢できないっ!)

「ね、レン、触っていい?っていうか触るね」
「へ?あ、お、おいっ!」

口先だけは質問の形をとり、承諾をもらう前に私の手は彼のネコミミを掴んでいた。

「おおー!すごい!本物みたい」

マスターが夜鍋して作ったというプログラムはさすがによくできていて、ふわふわとした手触りとリアルな温もりが指先を通して伝わってきた。

「ふわふわだあ。気持ちいー」
「なあ、くすぐったいだろ。あんま触んなよ」
「えへへ、ごめんごめん」
「ったく」

名残惜しかったけど、これ以上彼を怒らせるのも嫌だったから素直にレンから離れる。
触られた時の感覚が残っているのか、レンはどこか居心地悪そうにまだ、ぶつぶつと文句を言っていた。
その背後では相変わらずゆらゆらとうねる尻尾。

「レン」
「だめ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「どうせ尻尾も触らせてって言うんだろ」
「うっ」

図星をつかれて黙り込む。さすがにばれていたか…。

「はあ…お前さ、俺が嫌がってるのわかってるだろ?リンといい、マスターといい、人をオモチャにして楽しいのかよ」
「そ、そんなに言わなくても…」

レンの辛辣な物言いにしゅんとうなだれて涙ぐむ。

「え、あ、いや、わ、悪かった、ちょっと言い過ぎたよ。謝るから泣かないでくれって。な」

私の涙に驚き、慌てて謝ってくるレン。…………ふっ、計画通り。
キラッと目を光らせて私はレンに襲いかかった。

「隙ありっ!」
「な、ばっ、うあっ!」

油断していたレンはあっさりと私に背後をとらせてくれた。
ふっふっふ、諸葛リンちゃんの計略にかかればレンなんてちょろい、ちょろい。
そのまま天下…ではなくレンの尻尾をぎゅうっと掴み取る。

「うわあ、やっぱりこっちももふもふ」

毛並みに沿ってすっと撫で上げると、滑らかな手触りが気持ちよくて、何度も上下に動かしてその感触を楽しむ。

「おいリン…っ、そこ、っ…あんまさわ、な」
「?どうしたの、レン」

先程からどうもレンの様子が変だ。
顔は真っ赤だし、眉間にしわを寄せて何かを堪えるようにぎゅっと固く目を瞑っている。
絞り出すようにして発された声は妙に熱っぽく掠れていた。
そんなに触られるのが嫌だったのだろうか。でもこれって嫌がっているっていうより…

「レン…もしかして、気持ちいいの?」
「なあっ!?そんなわけ…うあっ、ふっ」

口では否定しているが、実際にはどうかなんて今のレンを見れば明白だ。
尻尾を掴んだ手に少し力を加えるだけで熱い吐息を零して、尻尾どころか身体全体をビクビクと小刻みに震わせている。

「へえ〜」   
 
 自然と口元がにんまりしていくのを感じた。いえいえ別に他意はありませんよ?
私はただレンの尻尾を撫でているだけ。別に毎晩好き勝手されている仕返しをしようだなんてこれーーっぽっちも思ってないんだから。

「ふふ、そっかそっか。そうだよねえ、尻尾触られて感じちゃうなんてあるわけないよねえ」
「くっ、リン、おま、え…ふ、はあっ!」

緩急をつけて扱くように擦ると、さっきよりも反応が大きくなった。
どうやらお気に召したみたいだ。そのままシュッシュッと上下に擦り続ける。
レンはなんとか私を押しとどめようとするけど、うまく力が入らないみたいでろくな抵抗もできずに未知の快感に翻弄されていた。

(いつもは私がこうやって苛められているんだから、レンもたまには思い知ればいいんだ)

積年の恨みを右手に込めて、根元のところをぎゅっぎゅっと強弱をつけて握ったり、先端部分は指先でぐりぐりと押し潰すようにして刺激してやる。
レンも段々余裕がなくなってきているみたいで、ずっと唇を噛んでやり過ごしていた喘ぎ声が大きくなっていく。

「はあ、は、…う、ああ!あっ!あ、はあ」
「レン可愛いー」
「おまっ、ふあ、いい加減に、ふ、くうっ!」

尻尾と耳をふるふる震わせて喘ぐレン。
普段は見られない相方の可愛らしい姿にうっとりと見惚れる。
ああ、いつもこうだったらいいのに。このままプログラムを残しておいてもらえるようにマスターに頼んでみようかな。
そんなことを考えていたせいか、今までされるがままだったレンが突然動き出しても私はすぐに反応することができなかった。

「はあっ…!リン!」
「え、ちょ、ぴゃあっ!」

レンは急に私の手を捕らえたかと思うと、そのまま股間に押し当ててきた。
そこまでやるつもりはなかった私は驚いて手を引っ込めようとするけど、レンがそれを許さずいつの間にか露出させていたレン自身に私の手を触れさせた。

「レ、レン…なにやって」
「何って、リンのせいでこうなったんだよ。責任とってもらうからな」
「責任って、あ、やだ…っ」

すでに硬くなっていたソレを私の手に握らせて、そのまま上下に扱かせる。
私の手を使って自慰をするかのような動きに、今さらながら凄まじい羞恥を感じた。

「や、レン、まって」
「無理、待てない」  
 
ヤケドしそうなほどの熱をもったソレはますます硬度を増して大きくなっていく。
それに比例するかのように手の動きも激しさを増した。

「リン!リン!」

レンの荒い息遣いが響き、掌でレンのがビクビクと脈打つのを感じた。

「や、やだ…レン、まさか」
「くっ…もう、でる…っ!!」

レンの身体がビクリと跳ねた次の瞬間、私とレンの手の中で熱い欲望がはじけた。

「うっ…はあ…はあ…っ」

レンは激しい運動をした後のように肩で息をしている。その隣で私は自分の手にかかった白濁の液体を呆然と見ることしかできなかった。











「さて、リン。何か申し開きはあるか」
「え、えーと、ゴメンナサイ」

こめかみに青筋をたてて、仁王立ちで凄むレン。
あまりの迫力に怯えながらも、なんとか謝罪を口にするけど、レンの怒りはちっとも和らいでなんかくれなくて、口元の筋肉だけで作った引き攣った笑みを浮かべたてきた。

「あっはは、まさかごめんで済むとか思ってないよなあ」

うう…レン君、目が笑ってないですよ。

「散々、好き勝手遊んでくれたんだ。このお礼は高くつくからなっ、と」
「きゃっ!や、やだ、おろして」

急に体を抱き上げられて、思わず悲鳴をあげる。
なんとか逃れようと手足をじたばた暴れさせるが、そんな抵抗など気にも留めず私を抱き上げた張本人はすたすたと寝室に向けて足を進めていく。

「覚悟しろよ。一晩中鳴かせてやるから」

にっこりと告げられた恐ろしい宣言に血の気が引いていく音がした。

「い、いやあああああああ!!!!ごめんなさいごめんなさいおろしてええええええええ!!!!」

私の叫び声はもちろん聞き届けられることはなく、そのまま寝室に消えていった。






翌日、ネコミミも尻尾もなくなってご機嫌のレンと、対照的に妙にやつれた私が寝室から出てきてマスターたちに不思議がられたのは言うまでもない。








にゃんこのレン
教訓:好奇心、猫に殺される(性的な意味で)


エッチな双子がにゃんにゃんにゃんの日記念。間に合わなかったけど。


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