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    夜明けの光を浴びる前、全てを忘れる夢を見た。そうできたら、どれほど楽になれることだろう。
    今日に限って美しく、黄色く焼けた卵焼きを弁当箱の端に詰め込んで蓋をする。あの人のために用意した緑色の布地で丁寧に包んだ。ぽたり、ぽたりと音がして、結び目の余りが雫で濡れる。僕の目尻を伝い落ちているのだ。泣きたいと思ってなどいないのに。
    指先が情けなく不安定に震え、弁当箱の中身を全て、ぶち撒けてしまいたい衝動に駆られる。流し場の隅に追いやられたプラスチック製の三角コーナーに、弁当箱をひっくり返して塵屑へと変えてしまおうか。ぐちゃぐちゃに、取り返しつかなくしてしまえば、諦められるのかもしれない。僕は僕の願望を、儚い貴方の存在を。
    ひとしきり涙を零し終えて、漸く思った。学校に、行かなければ。どうせ逃げてばかりではいられない。渚くんにも怒られてしまったし、凛さんにも呆れられてしまった。世界はもうすぐ春になる。貴方が卒業するはずだった季節。時間はどうしようもなく過ぎていく。


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