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    久し振りに、渚くんと昼食を共にした。屋上に行こうとする僕を、有無を言わさぬ強引さで渚くんが引き止めたからだった。教室の一番後ろにある、渚くんの席に弁当箱を並べて、お互いの額を突き合わせる。

「怜ちゃん、料理上手になったね」

    相変わらずの奔放さで、僕の紫の弁当箱からひょいひょいおかずを取り上げ、感心したようにつぶやく。褒められて悪い気はしなかったので、素直にありがとうございますと告げる。けれど、そろそろ中身を全て、食べられてしまいそうだったから、僕が彼の手の届かないところに弁当箱を遠ざける直前。最後に取り上げた鮮やかな黄色の卵焼きを口にして、渚くんは不思議そうな表情を浮かべた。

「あれ、甘い。前はしょっぱいのじゃなかったっけ」
「ああ、それは」
「マコちゃんの好きな味、だよね」

    急に冷たい口調になって、細められた瞼の隙間から突き刺さるような視線が、僕を射抜いた。それなのに、どこか湿った、泣き出しそうな声。

「ねえ怜ちゃん。どうして毎日、二人分のお弁当を持って、誰もいない屋上に行くの」

    そうか、そのためか、と納得した。渚くんは僕を責めようとしている。自分の方へ引き戻そうと、ここに居るのだ。安易に謝ってしまいたい衝動が僕を満たしても、言葉にするわけにはいかなかった。渚くんの願望を、僕が踏みにじるわけにはいかなかったから。その代わり、雑談のような儚さで、僕は真琴先輩と会ってからずっと、考えていたことを口にした。

「君には僕を糾弾する権利があります」

    さあ、僕に、言葉を。大切な君が一生懸命考えた、僕の不実を罵る言葉を。


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テーマ「人外ファンタジー」
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