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    朝からかなり寝坊してしまって結局お弁当を作ることができなかったから、僕は真琴先輩のものと二人分、購買でパンを買って屋上に向かった。フェンス越しに景色を眺めていた真琴先輩が、僕の持つビニール袋に目をやり、ぱちりと清かに瞬きをする。

「焼きそばパンと、カレーパン、どちらがいいですか」
「んー……、ごめん。今日はお腹空いてないから」
「そう、ですか。分かりました」

    てっきり空腹だろうと思っていたから、断られたことに拍子抜けしてしまうが、いらないというのなら本当にそうなのだろう。真琴先輩が僕に対して、そんな嘘をつく必要などない。
    パンを食べる僕の隣に座り込んだ真琴先輩が、僕のポケットからはみ出した茶色い長封筒に興味を示した。それは?と指をさし、尋ねられたことで、僕はすっかり失念していたその封筒の存在を思い出す。

「ああ、これは」

    引っ張り出して手渡すと、わざわざ太陽に透かすことで、中身を確かめようとしている。結局分からずに、諦めたのか、真琴先輩が悔しそうな顔で長封筒から紙切れを取り出した。文面に目を滑らせ、不思議そうに僕を見た。

「映画のペアチケット?」
「そうですね」
「……誰かに誘われたのか?」
「違います。人から貰ったんです」

    手の中でひらひら揺れるそれを、真琴先輩はじっと見つめた。じっと見つめた後、こんどは僕に視線を向けた。何か言いたげなその顔に、少し、笑って。

「欲しいですか」
「いらない。けど」
「先輩のことは、誘いませんよ。意味が無いので」

    真琴先輩が傷ついたような顔をした。僕は不安定な罪悪感と、僅かばかりの歓喜を覚えて、奪い取った映画のチケットを高く放り投げ、風に流した。チケットはすぐに見えなくなる。どこかに飛んでいったのだろう。
    明日はお弁当を食べましょう。そんな僕の囁きに、真琴先輩は黙って小さく頷いた。


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