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自分のものと、真琴先輩のもの。二人分の弁当箱を携えて、僕は屋上に顔を出した。高いフェンス越しにプールを見つめる真琴先輩が僕に気づいて、小走りに駆け寄ってくる。
「今日のおかずは」
「アスパラベーコンと、里芋の煮物と、おひたしに、あと卵焼きです」
「卵焼きは甘いやつ?」
「ええ、もちろん。ふりかけもありますよ。先輩の分がのりたまで、僕の分は梅かつおです」
お世辞にも座り心地がいいとは言えない、コンクリートの上に並んで腰掛け、僕と真琴先輩はそれぞれ弁当箱を広げた。他愛のない会話をしながら、ゆっくりと食事を噛み締めた。
ちょうど弁当を食べ終わった頃。昼休みの終わりを告げる、雑音混じりの予鈴が鳴った。さっきまでにこにこと笑っていた真琴先輩が、耳を澄まし聞きいるような顔をした。座り込んだままの僕に向かって、微笑み、立ち上がることを促した。
「教室に戻ろう。渚が待ってるんだろ」
「そうですね、戻ります」
緑色の布地に包まれた、真琴先輩の弁当箱を受け取って、僕は屋上を後にする。一瞬だけ振り返ると、真琴先輩の姿は既に、軋んだ音を立てながら閉まる、扉の向こうへと隠されていた。
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