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重たく錆の目立つ鉄製の扉は、この学校にいる誰もが立ち入ることのない、校舎の屋上へと続いていた。ドアノブに手を掛け、押し開ける。強い風が吹き抜け、冷たさに剥き出しの頬が固く強張る。その容赦なさに怯むことなく、僕は、剥き出しのコンクリートへと上履きのまま踏み出した。
真新しく、頑丈なフェンスに四方を囲まれた空間。中央に聳える給水塔と、どこから運ばれてきたのだろうか。鈍い青さの雑草がひび割れた隙間から葉を伸ばしている。僕にとっては身近な景色。なのに、とても懐かしい。最後にここを訪れてから、まだそれほど時は経っていないはずなのに。思い出すことが苦しいだけで、理由はよく分かっていた。
僕は日陰に腰掛けて、持ってきた弁当箱の包みを開き、手を合わせる。色々な味が混ざり合った、独特の匂いがした。給水塔がちょうどよく、風よけになってくれているお蔭でそれほど不便は感じなかった。ただ一つ、冬も間近の日陰はやはり、それなりに肌寒いものだった。この場に座る前からその事が分かっていたとしても、僕は決して他の場所に座ろうとは思わなかっただろうけれど。
黄色く、甘い味付けの卵焼きに、箸を伸ばそうとした時だった。
「今日はお弁当なんだな」
頭上から掛けられた声に、視線を仰がせた先。見慣れた柔らかい笑顔を浮かべる、真琴先輩がそこにいた。
僕はほんの少し驚いて、……嘘。本当に、とてもとても驚いて、ぱかりと口を開いたまま暫く何も言えなかった。どうしてここにいるんですか、尋ねるべき言葉が中々喉から出てこない。漸く、僕の呟いた「真琴先輩」というそれだけの呼びかけに、目の前にいるその人は「どうした?怜」と首を傾げた。やけに可愛らしい仕草だった。
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