部活を終えて、着替える途中。目の前で露わになった真琴の背の、薄く隆起した僧帽筋と三角筋の境目を何の気なしに指先でなぞると、

「ひぁっ!な、なに?ハル?」

    飛び上がらんばかりに驚いた真琴が、やけに面白い声を出すものだから、俺はちょっとした好奇心で自身の胸が高鳴るのを感じた。
    制止するような真琴の手をすり抜け、皮膚の下に浮かぶ筋肉に沿って人差指の先を滑らせていく。触れるか触れないか、というだけの力を込めて。榛色をした真琴の髪、その襟足から伝い落ちていく透明な雫を追いかける。俺の指が日焼けした皮膚を滑るたびに、真琴は擽ったさに身を捩って、逃れようとするけれど上手くいかないのか、抵抗は微々たるものだった。それをいいことに、思う存分真琴の背中を指先でなぞる。

「や、っめ、ハル!くすぐったいから!」
「俺はくすぐったくない」
「そりゃそうだよ!!っも、ハル、やめてってば……っ!」

    必死に抗議する真琴は、翠色の双眸をじわりと潤ませていて。なおさら楽しさが増した。半泣きになる真琴をみていると、どうしてかいつもこういう気分になる。もっとその表情を見ていたくて、口元に思わず笑みを浮かべながら、背中に滑らせていた指先を脇腹の方まで伸ばす。真琴の声が一際高くなる。楽しくて仕方がない。
    そんな俺たちに向けられた、全く意識してはいなかったがここは部室なのだから当然最初から部屋に居たのだろう、渚と怜、それに江の声が聞こえる。

「怜ちゃん、見てよセクハラだよ」
「そうですね。紛うことなきセクハラです」
「ダメ、ダメよ……!男の人が半裸で戯れているところなんて……!年頃の女の子が見ちゃダメ……!」

    一人ばかり多少おかしいが、とにかく渚も怜も、意味合いは違えど江も、傍観者を決め込んでいるらしい。俺にとっては好都合だけれど、藁にも縋る思いの真琴は必死さを帯びた声で比較的まともな方の二人に助けを求めている。

「な、ぎさ、怜も、ハルを止めて、くれって!」
「えー、だってハルちゃん楽しそうだし」
「こんなに楽しそうな遙先輩は水に入っている時ぐらいでしょうね」
「ああ。すごく楽しい」
「だって!よかったねマコちゃん!」
「なんにもよくない!!」

    結局助けてはもらえなかった真琴が勢いよく俺を振り向く。弾みで指先が離れてしまって、不満を顔にあらわすと、俺よりももっと不満そうな顔をして真琴はこちらを睨みつけた。だから、そんな半泣きになった顔で睨まれても、どきどきするだけだというのに。真琴はなにも分かっていなくて、そんなところが可愛いと思う。
    再び伸ばそうとしていた手が、真琴に勢いよく掴まれた。ふちまで目一杯涙を溜め込んだ真琴の眼。あと、少しで泣きそうに見えた。どきどきする。心臓が、ひどく、うるさくなった。

「やだって、言ってるだろ」
「……お前が嫌がるから、やりたくなる」

    ぽかん、と驚いて口を開けた真琴は幾度も瞬きをした。俺も自分が言った言葉に少なからず驚いていた。ぼんやりお互いを見つめたまま、黙り込んでいる。固まった真琴をいいことに、俺は掴まれていた手をゆるく解き、なめらかな頬に親指で触れ、目元を擽る。真琴の肩が跳ねた。

「嫌か?」
「嫌、だよ」
「そうか。じゃあ、いい」
「なんでそうなるの……」

    耳たぶを擽られながら、けれど真琴はそれ以上逃れようとはしなかった。ただ、涙目なままでいた。俺のことを見つめ続けていた。どきどきする。高揚感が頭を満たす。いじめたいわけじゃない。単にそれだけではないのだ。けれど。

「お前がそんな顔をするから、悪い」

    そうだ、決して俺のせいじゃない。こうして真琴を擽るのも、嫌だと言われてどきどきするのも、全て真琴が悪いのだ。真琴は何か言いかけて、一度口を噤んでから、呆れたように言葉を吐き出す。

「ハルの、意地悪」

    その言い方が、あんまりにも溜息とよく似ていたので、俺は思わず少し笑って、湿り気を帯びた真琴の前髪をそっと耳の方へと払った。擽ったそうに息を詰めた真琴が、仕方なさそうにはにかんだ。











かなたさまからリクエストしていただきました『くすぐったがりのまこちゃんにいじわる(イタズラ)するハル』です!
ハルちゃんが予想外にいじめっ子になりました。個人的にはまこちゃんがくすぐったがりだと大変嬉しいです。
まこちゃんがくすぐったいの苦手だと知りながら、くすぐるハルちゃん。なんて美味しいポジションですか!!幼馴染って素敵ですよね!!
もう遙真は人前だろうがなんだろうが、本人たち無自覚なままいっちゃいっちゃしてたらいい。本気です。
傍観者な渚くんと怜ちゃんは多分さっさと帰ってると思います。江ちゃんは二人に引きずられていったかと。彼女のセリフがお気に入りです。
結局二人がいちゃつくだけのお話になりましたが、書いててとっても楽しかったです!!
かなたさま、リクエストありがとうございました!!

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