真琴は時折、思い立ったように大胆な行動に出ることがある。恋人らしい触れ合いというやつを求めてくることがある。決まって二人きりで過ごしている時、甘えてキスをねだってみたり、べたべたとまとわりついてみたり。そのくせ凛が、真琴の望むことを気まぐれに叶えてやったりすると、途端真琴はこの上なく照れて、まともに凛の顔も見られなくなる。自分からしかけてきたくせに、だ。凛にはそれがよく分からない。

    とにかく今日もまた、真琴は楽しげな顔をして凛になにか仕掛けようとしている。凛の住む寮の部屋だった。同室の似鳥は朝からどこかへ出かけている。部屋に備え付けられている二段ベッドの下の段。自分の太腿を手のひらで叩き、はにかむ真琴が首を傾いだ。

「なあ、凛。膝枕しようか?」
「…………チッ」

    盛大な舌打ち。ベッドに腰掛ける真琴に近づく。無言のまま、真琴の傍らに身体を横たえ、示された場所に後頭部を載せる。こちらを呆然と見ていた真琴が今更慌て出し、混乱して狼狽えているが凛の頭を腿に載せた状態では思うように動けないようだった。反発しているつもりなのか、申し訳程度に凛の髪を一房摘み何度も引っ張っている。
    顔を俯け、困ったように眉を落とす真琴の表情をじっと眺めた。日焼けで色の濃くなった目元に手を伸ばして親指でなぞった。くすぐったさからだろうか。真琴の眦がかすかに跳ねる。

「り、凛。ちょっと」
「お前がするかって聞いたんだろ」
「でも、ほんとにするとは思わなくて」
「したくねえなら何で聞いた」
「したくないわけじゃなくて!」

    じゃあなんだ、と言いたげな。そんな表情を凛が浮かべると、真琴は答えに詰まったのか薄い唇を引き結んだ。本当によく分からない。キスをしろとねだられたのも、抱きしめて欲しいと言われたのも、すべて真琴から言い出したことだ。凛としてもそのお願いが決して嫌なわけではなく、むしろ嬉しく思えるので望まれたとおり叶えてやるのに。
    羞恥に頬を染める真琴は確かに可愛らしくはあるが、照れ臭さから接触を拒み出すその行き過ぎ感はいただけなかった。現に今も、伸ばされた凛の手からなんとか逃れようと思い切り顔を逸らしている。これでは面白くないにもほどがある。
    明後日の方角を向く真琴の顎を掴み、強引に自分の方へと向けた。その際首をおかしな方向に捻ったらしく、痛い!という声が聞こえたが特に気にせず無視をしておいた。薄っすらと膜の張った真琴の瞳に抗議の色が宿っている。それでも、後頭部を凭れさせた膝が大きく動かされないのは、優しいを通り越して甘ったるい、真琴の思いやりなのだろう。もしくは狼狽えていながらも、膝枕なんて気恥ずかしい行為を少なからず望んでいたのか。二つの可能性を考えて、凛は低く、喉を鳴らして笑う。

「何、笑ってるんだよ」
「別に。構ってほしいんなら、そう言やいいんじゃねえの」
「……うるさい」
「拗ねんな」
「拗ねてない。呆れてるだけだ」
「じゃあ呆れんな」
「理不尽。傲慢。バカ凛」

    ぶつぶつ文句を言いながら真琴は顎を掴まれたまま、眼下の凛に顔を近づけた。額同士を触れ合わせて、お互いの吐息すら感じる距離。鼻先を交差させるように首を傾けた凛が真琴の唇に噛み付いた。頑なに閉ざされている。

「おい」
「…………」
「口開けろ、真琴」

    真琴がふるふると首を振った。まだ拗ねてんのか。そう問いかけると先ほどより大きく首が振られる。隙間に人差し指を差し込んで、凛の唇を押しとどめた真琴が申し訳なさそうに目をそらした。

「口内炎痛いから、あの、……ごめん」
「てめえ……ふざけてんのか」
「だからごめんってば」

    自分から煽っておいて、いざとなればよりにもよって、口内炎。凛は深々とため息をつく。未だ間近にある真琴の目が、凛の呆れに気づいたのか見るからにしょんぼりと沈んでいく。ああほら、また、そんな顔をして。
    仕方ねえな、と凛が呟く、その直前。ばたん、と部屋の扉が開いた。

「ただいま戻りましたー!松岡先輩!お土産に牛にゅ、……」

    飛び込んできた似鳥の視線が、膝枕をする真琴を捉え、される凛を捉え、曖昧に微笑み静かに扉が閉まっていく。ぱたん、ささやかな音と共に似鳥の姿が向こう側に消える。一拍遅れて真琴の叫び声。凛の身体が容赦無く床へと振り落とされた。
    頬を真っ赤に染めた真琴が布団をまとって丸くなる。隙間なく籠城するその姿を見て、機嫌を取るのに骨が折れそうだと、凛は内心嘆息する。ひとまず布団を剥がさなければ。
    察しのいい後輩のことだから、もう暫くは戻ってこないだろう。そう確信した凛は、薄手の布にくるまった真琴にゆっくりと手を伸ばした。













むゆうさまからリクエストしていただきました凛真です!シチュ指定がありませんでしたので、とりあえず普通にいちゃいちゃさせてみました!!
凛真のまこちゃんは、なぜか凛ちゃんよりツンツンしてしまいます……。なぜなのか。そして大体ベッドの上でいちゃつくという。本当になぜなのか。
凛真のまこちゃんは、たまに凛ちゃん相手に大胆さを見せると良いと思います。それなのにいざ反応されると照れるまこちゃん。天使。
むゆうさま!リクエストありがとうございました!!

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テーマ「人外ファンタジー」
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