▽怜真前提、怜ちゃんが結婚する話


貴方はいつも笑っていました。僕の隣に佇む時も、美しいものを見た時も、誰かの発した無神経な言葉で痛々しく傷ついてしまった時も。
貴方は水が好きでした。水の中で、泳ぐ貴方は遙先輩にも負けないぐらい腕を伸ばして、自由でした。日に焼けて浅黒く変化した貴方の肌は僕の瞼に焼き付いています。
貴方は料理が下手でした。僕よりも大きな手は見た目の通り不器用で、じゃがいもひとつの皮を剥くのにも大変な苦労をしていました。
貴方は僕が好きでした。それはもう随分と、遠い昔のように思えますが、かつて貴方は確かに僕の傍らで微笑んでいたのです。

真琴先輩、僕は明日、貴方とよく似た人と結婚します。
式に参列した招待客に混ざり、貴方は僕と、貴方によく似た女性とを目にして、かつてのように微笑み、決して相容れない場所に行く僕のことを祝福して下さるのでしょうか。



2014/01/09 17:52


▽まこちゃんをプレゼント、怜真


幻とは消えるものであって、僕の目の前の光景はしばらく経ったあとも消える気配を見せないから、きっと幻ではないのだろう。手の甲でごしごしと目を擦る。理解がいつまでも追いつかなくて、停滞した思考がぼんやりと、その状況を取り込んでいく。
「あの、真琴先輩」
「……なんだよ」
「どうして貴方が、僕の部屋で、ご丁寧に身体中をリボンで縛られて、放置されているのでしょうか」
思考を整理するために、逐一光景を言葉にすると、床に転がった真琴先輩が拘束から逃れようとしてばたばた暴れる。それで僕は漸く気がつき、慌てて真琴先輩を縛るショッキングピンクのリボンを解いた。ベルベット生地のそれは、触れただけでわかるほど上質なもので、感心して親指でするするとなぞる。解放された真琴先輩が、縛られて赤くなった手首をさすり、深々とため息をついた。



2014/01/09 12:15


▽高校生の恋、怜真前提


たかだか高校生の恋だから、それがたとえば、世間一般で普通だとは思われない男同士のそれだったとしても、結局、その程度だ。すこしだけ普通じゃなくて、どうしようもなく普遍的。俺と怜は、そんな恋をしている。二人で帰って、たまには手を繋いで、休日には出かけたり、お互いの家を行き来したりして。ほら、こんなにもつまらない。文字だけにしたら、だってこの恋は、とんでもなく普通じゃないか。誰に責められることもない、高校生の恋じゃないか。
なのに、どうして。
どうしてそんな顔するの、ハル。渚も、凛も、どうしてそんな。
理解できないものを見るような、そんな顔で俺たちを睨んでいるの。



2014/01/09 07:36


▽聞こえてるなら返事してよ、凛真


柔らかい毛布とは似ても似つかない、凛の背中に頬をくっつけて、遠慮なく体重を掛ける。重たいだろうに、凛は一言も文句を言わない。多分、この間発売されたばかりの雑誌に夢中になっているのだ。俺のことなんて放っておいて。
「なあ、凛」
「ああ」
「面白いの、それ」
「ああ」
「……生返事」
「ああ」
「つまんない」
「ああ」
「つまんないよ、凛」
「ああ」
「…………」
「…………」
「…………好きだ」
「俺もだ」
聞いてたの、と驚く俺を振り向き、凛がにやりと笑った。



2014/01/08 17:57


▽ハルがどこまでもついてくる、遙真


最近ハルは、いつも俺の後ろをついてくる。いつも通り足音静かに、別段ハルには用のないだろう場所にも、ちょこちょこと。そうやって後ろをついて回る時には、大体ハルの手は俺の服を掴んでいて、まるで小さな子供が親にするみたいだった。
「最近、どうしたの?」
「何がだ」
「いつも俺についてくるよね」
「……嫌なのか?」
「嫌じゃないよ。ハルと出かけられるのは嬉しいし。でも、前はそんなことなかったから」
「…………」
黙りこくってしまったハルが、言葉を発すのをじっと待つ。多分ハルは今、頭の中で、自分の気持ちを整理しているのだ。表面上は凪いで見えても、きっとその内面で目まぐるしくいろいろと考えているに違いない。根気強く、暫く待って、漸くハルは口を開いた。
「ずっと一緒に居たい」
主語は抜けていて、それだけ聞くと誰のことかは分からない言葉。でも、今話しているのはハルが俺についてくる理由なのだから。導き出された結論に、俺の頬が赤くなる。そんな俺の顔を見て、ハルはなんとなく楽しそうに「真琴と」そう付け加えた。



2014/01/08 12:24


▽まこちゃんを好きじゃなくなったハルちゃん


捨てないで、と真琴が言った。泣きながら言った。縋りながら言った。何度も何度も繰り返し言った。手向けられるその言葉全てが空虚で、意味のないものに思えた。あゝどうしよう。俺にとって、もう真琴は大切な存在ではなくなってしまったのだ。でなければこんなにも、あれ程大事にしていた真琴がつまらないものに見えるはずがない。裾を掴む真琴の手を、引き剥がそうとするけれど、俺よりも力の強い真琴はそれを許してはくれなかった。
「離してくれ」
「やだ、嫌だ、ハルちゃん、捨てないで」
「離してくれ、真琴」
「悪いところ全部直すから。だから、お願い捨てないで」
「離せ」
頑なな指を振りほどく。未練もなく宙に放り出す。真琴の嗚咽がいっそう酷く、鼓膜をいつまでもしつこく揺らした。



2014/01/08 07:33


▽真琴先輩を見かけると幸せ、怜真


あまり頻度の多いことではないけれど、校内でふとした時に真琴先輩を見かけると、自然と口元が綻んでしまって、少し気分が高揚する。大体僕の隣にいる渚くんからは、そのことをよく指摘された。化学の授業を受けるため、化学準備室へと向かう途中、つい先ほどもそうだ。
「またにやけてるよ」
「え、ああ、そうですか?」
「幸せそうで何よりだけどね」
どこか呆れたような渚くんの言葉に、多分緩んだ表情のまま、僕はありがとうございますと返した。渚くんはぱちんと瞬きの後、肩を竦めて首を振る。
「……ごちそーさま」
そんなやりとりも日常の一端。いつもよりほんの僅かだけ、鼓動を高鳴らせたまま僕は「お粗末様です」なんてうそぶいた。



2014/01/07 18:10


▽杏仁豆腐味のゼリー、渚真


「じゃーん!はいマコちゃん!」
やけに目を輝かせる、コンビニ帰りの渚から差し出されたものを受け取った。
「……ゼリー?」
「うん!なんと杏仁豆腐味!」
赤と白で構成されたラベルを眺めると、確かにそう書いてある。新発売、杏仁豆腐味のゼリー、新食感に新感覚。新しいもののオンパレードだ。
「杏仁豆腐味のゼリーって、杏仁豆腐を食べればいい話じゃないのか?」
「そうだけど、だからこそだよ!普通に杏仁豆腐を食べればいいところをあえて!みたいな」
「そういうものかな」
「そういうものなの!」
渚の熱弁に気圧されて、それならそうなのだろうと納得する。ぺりぺりと音を立てて上蓋を剥がし、付属の小さい紙スプーンで見た目には杏仁豆腐にしか見えない、白いゼリーを掬い取った。もぐもぐと咀嚼する。うん、これは。
「杏仁豆腐だ」
「味が?それとも食感?」
「どっちも」
「ええー!」



2014/01/07 12:26


▽強い渚くんがまこちゃんを迎えに行く話


まこちゃんがぼこぼこにされてます。
間接的な鬱、暴力描写あり。
大丈夫な方のみ追記からどうぞ。



追記
2014/01/07 12:24


▽強い渚くんがまこちゃんを守りたい話


驚いて目を見開いている、マコちゃんの手を強く強く掴む。だって、マコちゃんがあんまりにも、悲しいことを口にするから。僕は正直、怒ってしまって、口を開くとマコちゃんのことを責め立ててしまいそうだったから、唇を噛んだままじっと耐えた。マコちゃんはいつもそんなことばかり呟く。自分がどうでもいい存在だと、周りに思って欲しいみたいだった。でも、僕は認めない。マコちゃんは大事なひとなのだから。僕にとって。僕だけじゃなく、ハルちゃんや、怜ちゃんや、凛ちゃんにとっても。
呆然と僕を見つめたままの、マコちゃんを睨みつけて、ゆっくりと呼吸を整える。よく聞いてね、そう言うと、マコちゃんはわけも分からず頷いた。
「マコちゃんは僕が守るよ」
「っでも、俺なんか」
「なに言ってるの。俺なんか、ってなに。分かんないの、ねえ、マコちゃん」
マコちゃんの手に爪を立てた。痛がるマコちゃんが離れようともがく。
「僕のマコちゃんを、僕が守らずに、一体誰が守るっていうの」
掴まれた手と同じぐらい、強い強い言葉にマコちゃんは、爪を立てられた時よりもずっと、痛くて仕方ない顔をした。それでも僕は、絶対に、離してなんかあげるもんか。



2014/01/06 18:56


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