▽僕のものではない貴方、遙真前提怜→真


ぬるい水面から顔を出すと、照りつける日差しが瞳を突き刺す。僕から少し離れた場所で、遙先輩と真琴先輩が仲睦まじく話していた。
「ハル、今日は調子いいんじゃない」
「ああ」
「だからってまた前みたいに、日が落ちるまで水に浸かってたりしちゃダメだからね」
「わかってる」
「なら、いいんだ。今日はコンビニに寄ろうよ」
「お前の好きなチョコ、新作が出てた」
「えっほんと?」
「……もう買ってある」
「じゃあ、今日はそれ、半分こしながら帰ろう?」
「ああ」
他愛のない会話。どこにでもありふれているはずの、その中には、確かにお互いに対しての隠しようのない熱がある。あの二人は恋人同士で、それも当然のこと。ただの後輩でしかない僕が、そこに割り込むことはできない。ぼんやりと二人を眺める僕に、笹部コーチの叱責が飛んだ。
「怜!サボってんじゃねーぞ!」
もう少し、もう少しだけ僕に時間を下さいませんか。じりじりと痛むこの心が深い場所に沈み込んでしまうまで、僕のものでない真琴先輩を瞳に映していたいのです。嗚呼。



2014/01/17 12:16


▽怜を軽んじる真琴、怜真前提の渚+真琴


こんなにも渚が怒ったところは初めて見た。あの明るくきらきらとした雰囲気は表情のどこにも見当たらなくて、鋭利な刃物のような視線で俺のことを突き刺していた。強く噛み締めていた唇から血を吐くようにして言葉を吐いた。
「怜ちゃんはね、マコちゃんのおもちゃでも、便利な道具でもないんだよ」
「そんなこと知ってるよ」
「じゃあどうして!!……っどうして、あんな、酷いこと」
感情を爆発させた渚に俺はささやかな微笑みを返した。驚愕に目を見開いて、今にも泣きそうな顔をしている渚の頬にそっと触れる。紛れもない嫌悪感が渚の幼げな顔を満たす。
「ーーーーーー」
囁き、告げた俺の心に、渚は世界の終わりを目にしたような、絶望的な顔をした。



2014/01/16 12:15


▽白に近づく、怜真


日々を過ごすうちに少しずつ、感情の起伏、境目が曖昧になっていくことを、真琴先輩は「心が薄まる」と表現した。一日が過ぎるたび、白で埋め尽くされた病室に溶け込んでいくかのような真琴先輩に、その言葉はよく似合っていた。色を失くしてしまう真琴先輩を、僕がどんな思いで毎日見つめていたのかも知らないで。
「貴方が白になってしまうのなら」
僕もまた、いつかどこまでも希薄になって、全てを忘れてしまう日を唯一の希望にすること、その不毛な願望を、救いにしてもいいのでしょうか。



2014/01/16 07:19


▽熱中症になった怜ちゃん、怜真


体の怠さをもてあまして、部室の長椅子に横たわる僕の傍らに誰かが跪く。頭を動かすのも億劫で、視線だけをちらりと横向けるとそこには心配そうに僕を覗き込む真琴先輩の姿があった。何も言わずに、手のひらで僕の額に触れる。お互いの体温が馴染んでしまうより先に、離れた手のひらを名残惜しく思う。
「体調はどう?」
「先ほどよりも、だいぶいいです。……すみません、まさか熱中症だなんて」
「いいよ。こっちこそ、気づけなくてごめんな」
そう言った真琴先輩は、見ているこちらが痛ましくなるほど、悲痛な表情を浮かべている。優しいこの人のことだから、僕が倒れてしまったことを誰よりも気に病んでしまったのだろう。貴方がそんな顔をする必要、無いのに。プールに入っているからと、水分補給を怠ったのは紛れもなく僕自身なのだ。真琴先輩が首を傾けた。力ない僕の腕にそっと触れた。
「なにかして欲しいこと、あるか?」
問われたことを考える。して欲しいこと、そう言われて真っ先に思い浮かんだのは。
「……もう少し、」
「え?」
「もう少し、傍にいて下さい」
渚くんが保健室から先生を連れてくるまでの短い間、真琴先輩は僕の望みを叶えてくれた。



2014/01/15 12:16


▽ちょっとでいいから、凛(→)←真


「俺のこと、ちょっとでいいから好きになって」
凛が、心底嫌だ、という顔をした。俺の発した言葉に対しての反応だ。俺としては、そんな風に不快に思われるようなことを言ったつもりはなかったのに。いつも凛を怒らせてしまう。何気無く言った一言や、なんでもない行動一つで。きっと凛にとって許し難いことが、俺のそういうひとつひとつに宿ってしまっているのだろう。
「ちょっとでいいから、ってどういう意味だ」
「凛がコウちゃんとか、ハルとか、渚や怜に向ける感情の、何十分の一かでいいから、俺のこと好きになって欲しいなって」
「お前、それ、本気で言ってんのか」
「本気じゃなきゃ言わないよ」
がちん、と凛の歯が鳴った。苛苛と唇を噛み締めて、凛は盛大に舌打ちをした。そっぽを向いてしまった。嗚呼、また嫌われた。ありったけの勇気を振り絞って、好きになって欲しいと告げたばかりなのに。



2014/01/15 07:24


▽神様のいない夢を見た、怜真


神様のいない夢を見た。僕は自らの嗚咽で目覚めた。半身を起こした寝台の上で、胸元を掴み、息を整える。嫌な感覚とともに冷や汗が背中を滑り落ちていく。赦しも、救いも無い世界は、道を外れた僕に対してあれほど冷たく、容赦のないものなのだろうか。瞼を閉じるとすぐに蘇る、あの息詰まる光景に恐れを抱く。そんなにも、僕の恋は。
「まこと、せんぱい」
ただ一人、僕に寄り添う貴方の名を呼び、赦しを乞うた。神様は僕を咎めるだろう。昏い淵へと突き落とすだろう。それでも僕は、この想いを、手放しては生きていけないのだ。



2014/01/14 18:36


▽ひとりぼっちは寂しいから、凛真


一人にしないでって、思っても口に出したことはない。どうしてか。それはもちろん、俺のことを置いて行く人を困らせてしまうのが心苦しくて。例えば幼い弟妹にかかり切りの両親だとか、水と見るとすぐに飛び込む幼馴染だとか、ほかにも色々。寂しいとは思うけれど、同じぐらい、ううん、それ以上に仕方が無いとも思うから。なのに俺は今初めて、その言葉を口にした。情けなく目の前の服に縋って、一人は嫌だ、とつぶやいた。
「おいてかないで、凛」
「水飲むだけだ」
「やだ、いい子にするから」
ぐずぐずと甘ったるく鼻にかかった声。自分のものだとは信じられない。けれど、凛は俺をじっと見つめて、ベッドサイドに腰掛けた。俺の目元を覆う手のひら。あたたかさにひどく安心する。
「我儘、言えよ。聞いてやるから、なんでも」
凛の言葉にただ頷いて、俺はもう一度眠りに落ちる。



2014/01/14 07:42


▽貴方が望むもの、怜真


怜、口の中で呟く。声に出してはいないのに、目の前でパソコンに向かっていた怜が「呼びましたか」と言って振り向いた。
「怜」
「はい」
「れい」
「はい、なんでしょう」
「れーいー」
「キスですか?」
答える間も無く、キスされた。触れた唇が一瞬熱く、離れた後もじわりと痺れた。「……そうです」なんて項垂れた俺を、怜のひそやかな笑い声が包んだ。



2014/01/10 18:07


▽お互いの呼び方を変えてみよう、怜真


「お互いの呼び方を変えてみよう」
「呼び方、ですか?構いませんが、一体何に……」
「俺は怜のこと怜ちゃんって呼ぶ」
「なっ!!」
「怜は俺のことマコちゃんって呼んでよ」
「いや、あの、それは……っ!」
「嫌か?……怜ちゃん」
「い、や、ではっ、ない、です。………………ま、マコちゃん」
「…………」
「……………………」
「…………恥ずかしいから、やめよう」
「…………そう、ですね」



2014/01/10 12:20


▽黄色いペンギン、渚真


渚のイメージはペンギンだけど、それと同じだけ、黄色も渚によく似合うと思う。だから俺はいつもきらきらする渚のことを眺めながら、黄色いペンギンというやつがいたら、そっくりそのまま渚なのに、なんて詮無いことを考えたりする。
「なに考えてるの、マコちゃん」
「ん?ああ、渚は黄色いペンギンだなって」
「黄色いペンギン?そんなのいるの?」
「いるよ」
ほんとに!と顔を輝かせた渚に「俺の目の前」なんて付け加えると、しばらくの後、ようやく意味を理解した渚が俺の背中につむじを押しつけた。そのままぐりぐり思い切り押された。



2014/01/10 07:25


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