▽まこちゃんだいすき、渚真
渚くんの首を絞めるまこちゃん。
直接的な表現はありませんが、大丈夫そうな方のみ追記からどうぞ。



追記
2014/04/11 19:47


▽毎日は光の如く、渚+怜


僕たち以外に誰もいない寂れた駅のホームで電車を待っていると、隣にいる怜ちゃんがくしゅん、と小さくくしゃみをした。
「風邪?」
「かもしれません」
「大丈夫?もうそろそろ秋だもんね」
ひと月前よりも冷たくなったプールの水温を思い出してぶるりと震える。もうすぐ、あの広くてせまい水の中に飛び込めなくなるのだと思うと、なんだかとても寂しかった。
「時間が経つのは早いですね」
どうやら同じことを考えていたらしい、怜ちゃんを振り向きにこりと笑う。
「それだけ毎日が楽しいってことじゃない?」
「……ああ、そうですね。本当だ」
僕の言葉に怜ちゃんも笑う。



2014/04/10 22:12


▽こゝろ、怜真前提怜+渚


「しかし渚くん、恋は罪悪ですよ」
その言葉には、確たる裏打ちがあるもの特有の、いやな重さが満ちて居た。怜はかつて目にした恐ろしいものを思い出して身震いをし、その恐ろしさを理解できない渚を羨むように見た。
恋を、罪悪だと言い切るには、果たしてどれ程の絶望が必要なのだろうかと考える。その行為は全く、視界を遮る霧の中を手探りで進むが如く困難で、険しいもののように思えた。渚はひと時言葉に詰まり、それから無性に苛立って、怜の人を窓越しに見るようなその態度に食ってかかった。
「どうして、恋が罪悪だなんて」
「君はあの罪深さを知らないから」
「じゃあ怜ちゃんは知っているっていうの」
今度は怜が言葉に詰まった。そんな反論は予想もしていなかったと見えた。酷く狼狽し、態とらしく目を逸らしたが、結局答えが返ることは無かった。話はそれでおしまいになった。それ以降、渚が何を話しかけても、例えそれが恋は罪悪だという怜の認識に差し迫るものでなかったとしても、怜は深く考え込んだまま生返事ばかり寄越すようになったからだった。



2014/04/09 21:24


▽一億円の好き、怜真


怜の口にする「好き」は、価値にすると多分一億円くらい。そのぐらい貴重。対して俺の口にする「好き」は、そうだな、三百円ぐらいかな。安っぽくて、イミテーションみたい。口にしている俺としては、宝石のつもりで取り扱っているのだけれど。
「好きだよ」と、怜に告げると、怜は「ああ、そうですか」と言う。目も合わさずに。つまらなそうに。どうでもいいものをどうでもよく取り扱う。俺の言葉は道端の石ころだった。
一億円の価値を持つ、怜の好きはいつも遠い。時々俺は本当に怜と付き合っているのか、不安になってしまうほど。というかいつも不安だ。怜の気持ちが知りたくて、けれど知る術は持っていないから。俺はまた怜を好きだと言う。怜はいつもそうですかしかくれない。



2014/04/03 12:50


▽四月以外も嘘つき、怜真


嘘をついてもいい日、というのが一年に一度ある。つまり、それ以外の日に嘘をつくのはいけないことだということで。
だというのに、僕の前で微笑む彼ときたら。優柔と純粋さで多くのものを隠し切る、真琴先輩を前に溜息を吐く。
「何故、あんな嘘を?」
「ん?面白そうかなって」
「それだけですか」
「いつも通り、それだけだよ」
他愛もない嘘は真琴先輩にとって、掛け替えのない友人らしかった。彼と嘘とは片時も離れず、今となっては恋人、そう呼べる存在であるはずの僕にさえ、彼の言葉が真実なのか、それとも嘘なのか、わからなくなってしまいそうだ。唯一、好意を介した僕達の関係性だけを拠り所に、僕は真琴先輩のあらゆることを信じて、同時に疑っている。
「好きです、真琴先輩」
「うん俺も。好きだよ、怜」
嘘だと思えば空々しく、真実だと思えば迫真に聞こえる、真琴先輩の好き、という言葉が僕にとっての恋だった。



2014/04/02 12:39


▽完成品、怜真


ウェディングドレスが白い理由を知っていますか。そう聞かれて、俺はどうして怜がそんなことを聞くのか、真意も何も考えずに知識だけで答えを返した。
「貴方色に染めて下さい」
「嫌です」
「ええ……?」
間髪入れず断ぜられて、困惑してしまうのは仕方のないことだろう。ましてや、嫌だ、などと。言葉の流れで考えてみれば、少し傷つく反応だった。
呆然としている俺のことを見て、お互いの間になにか、行き違いがあることに気付いたらしい怜が、俺の頬へと手を伸ばし、繊細な仕草でそっと触れる。
「貴方は完成されている。既に僕が知る何よりも美しい色で塗りつぶされたキャンパスに、どうして余分なものを付け加えなければならないのか」
うっとりと、陶酔したような怜の瞳。そこに映る俺の顔は、毎朝鏡で見るのと同じ、何の変哲もないものだというのに、一体怜には俺のことがどんな風に見えているのだろう。さても小難しくよく分からない、怜の言葉だけでは到底想像がつけられる筈もなかった。



2014/03/17 18:37


▽もしもの話浮気編その2、怜真


「もしも僕が、浮気していたらどうしますか」
いつか、聞いたことのある問い掛けを、手元の本に目を落としたまま怜が口にしたのは、俺と怜の二人しか居ない、橙色の部室でのことだった。パイプ椅子に深く体重を掛けて、天井を仰ぎ、首を捻る。
「どうするのかな」
「僕に同じ事を聞いておきながら、ご自分のことは分からないのですか」
「考えたことなかったからね」
とても勝手なことを口にして、暫くじっと黙り込んだ。怜が、浮気。俺以外の人と。頭に浮かぶひとつの答え。
「怜がどっか行っちゃっても、いつか俺のところに戻ってくるなら、いいよ」
声にするとしっくりくる。あくまで浮気。本気なのは俺だけなのだったら、少しぐらいふらふらしていても、許してあげられる気がしたのだ。
背もたれから身を乗り出し、俯く怜を覗き込む。呆れたような溜息が聞こえた。



2014/03/14 08:19


▽もしもの話浮気編、怜真


「もしも俺が、浮気してたらどうなる?」
唐突な問い掛けに、言葉の意味を飲み込む時間が少し必要になった。一文節ずつ噛み砕き、問いの意味は理解しても、どうしてまた真琴先輩がそんな事を言い出したのか、全く理解できなかった。浮気、という言葉が、驚くほど真琴先輩に似つかわしくなくて、口端で小さく笑ってしまう。しかもどうする?ではなくどうなる?なのだから、戯れにしては馬鹿げていた。いっそ、馬鹿げていなければ戯れになりえないのだけれど。
僕は笑いながら、告げる。
「泣き喚いて、死ぬほど怒って、貴方のこれからを信じます」
驚くほどの大人しさで、のんびり答えを待っていた真琴先輩がすん、と鼻をささやかに鳴らした。貴方のこれからを信じます。その言葉の意味に気づいたのかもしれない。わざわざ説明するまでもなく、そう言ったことに関して真琴先輩は察しの悪い方ではなかったから。
代わりに、嬉しいですか、と尋ねようとしたら、そう口にする前に真琴先輩が鮮やかに笑った。嬉しいな、と呟いた。



2014/03/13 17:54


▽魔法使い怜ちゃん、怜真

「魔法には対価が必要なんです。無から有は生み出せない。僕に出来るのは、そこにある有をまた別の有へと変じさせるだけ。化学と同じだ」
例えば。と怜は言って、俺の手元から飲みかけのペットボトルを取り上げた。若葉色の蓋を捻り開け、中身の水を左手に注ぐ。流動的に零れる液体を、五本の手指で握りしめた。仄かな光。
「わ、虹だ……!」
次の瞬間、怜の手からは小さな、けれど鮮やかな虹が溢れていた。細かな光の粒を集め、七色に輝くそれに見入った。指先で半ばあたりに触れると、途端に色を失った空間。怜が呆れたような息を吐く。
「虹の仕組みはご存知でしょう。僕は今、流体であった水を細かな粒子へと変えただけです。触れれば当然、散らされます」
「すごいよ怜!本当に魔法が使えるなんて!」
「……人の話を聞いてるんですか、貴方は」
「聞いてるよ勿論。なあ、もう一回さっきの見せて」
「嫌です。疲れるんですよ」
「……どうしても?」
「……、最後ですからね」
仕方ない、といった風情で怜は俺の願いを聞いてくれた。ペットボトルに残されていた僅かな水をありったけ使い、今度は手のひらに一つずつ、小さな虹を生じさせた。煌々、輝くその虹を、今度は触れることなく眺め、色が空気に溶け切ってしまう最後まで、瞬きすら忘れていた。



2014/03/10 19:41


▽やだなにこのせんぱいかわいい、怜真


真琴先輩は、よく人の服を掴む。例えば人を呼び止めるとき。幽霊の存在に怯えるとき。僕の隣に身を横たえて、静かに美しく眠るとき。その力はとてもささやかで、ともすれば気づかないぐらいの弱さだけれど。
「どうしました?」
「っあ、……怜。ええと、その」
慌てる真琴先輩を見て笑う。気づかれないとでも思っていたのだろうか。僕に限って、そして、真琴先輩に限られて、そんな筈はないのに。何か言いたげに口元をむずむずと動かす真琴先輩の言葉を待つ。この人がこういう顔をする時は、真琴先輩にとって言いづらいこと。つまり、僕にとってとても嬉しいことを、言ってくれる可能性が高い。経験則だ。
案の定、僕の眼を覗き込んだ真琴先輩は、服の裾を控えめに掴んだまま、
「ーーーー、してほしい」
願われたことの可愛らしさに、耐えきれなくて目の前の真琴先輩を抱きしめた。




2014/03/07 18:46


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