▽あなたの目が大嫌いです、怜真


人の表情に意味を見つける。それが、昔からの癖だった。唇や、眉、瞳の動き。そんな微細でひそやかな変化を、一つ残らず汲み取って、その人が今どんなことを考えているのか、いつだって知りたくて仕方がなかった。幼馴染であるハルは、表情の変化に乏しかったけれど、そんな癖もあいまって意思疎通には支障がなかった。人から見て感情の分かりづらい、ハルという存在が隣にいたから、俺はそれから高校生になっても人を知りたいままだった。
そんな時、彼に、出会う。
「あなたのその目は不快です」
「……俺、何かしたかな」
「不躾にも程がある。本当に不快だ」
二度も、不快だと言い放った、竜ケ崎怜という存在は、俺がまだ出会ったことのないタイプの人間であることに間違いなかった。つり上がった眉、剣呑な視線、苛立ち交じりに噛まれる唇。怒っている、そのことは分かるのだけれど。
怜は俺を睨みつけた。吐き捨てるように口にした。
「とても単純で、卑屈で、偏狭。その目でもう二度と、僕を見ないでください、真琴先輩」
そんなことを言われても、俺はずっとこうしてきたのに、今更どうしていいのかさえ、何一つ分からなかった。ただ、怜が怒っている、それだけは、分かるのに。



2013/12/11 18:13


▽雪見だいふく食べたい2、凛真


「お好きな食べ頃でどうぞ、だって」
楕円形の蓋をめくり、裏側を覗き込んだ真琴が言った。どうやらそう書いてあるらしい。雪見だいふくの食べ頃なんて、正直どうでもよかったが、真琴はそうではないらしい。あれだけ積み上げていたくせに、積み上げ終わると満足し、食べる分だけを机に置いて、残りは全てあまり大きくない冷凍庫へと詰め込まれた。
すぐに折れてしまいそうな、付属のプラスチックピックで雪見だいふくの表面をつつき、食べ頃とやらを見極めている、真琴は酷く真剣な表情。なんとなく、横から手を伸ばし、ひょいとひとつつまみ上げる。あ、と驚く声と同時に、口の中へと放り込んだ。
「ああっ!!凛!!」
「不味くはねえな」
「食べ頃待ってたのに!!」
「今が俺の食べ頃だった」
わりと大きめの雪見だいふくをもそもそと頬張り、真琴の抗議に言葉を返す。なおも言い募る真琴に対し、親切心から、食べ頃過ぎるぞ、と教えてやると慌てたように確かめる、その様子がやっぱり真剣で、少し笑った。



2013/12/03 17:54


▽俺の怜、怜真


ちょっとした出来心。本当に、わずかな変化。怜のことを呼ぶ時に、俺の、と付け加えるようにしただけ。俺の怜。なんて、素敵な五文字。時々すごく、慣れていない反応をする怜はきっと、顔を真っ赤にして慌てるんだろうと思っていたのに。
「ねえ、俺の怜」
「はい。なんですか、僕の真琴先輩」
ああそっか。普通に返しちゃうのか。少し予想外だった。思った反応が得られなかったのは残念だけれど、僕の真琴先輩。その響きがなんだかすごく、耳に心地よかったから、俺はいつまでも怜にとって、僕の真琴先輩でありたいな、そんな風に願う。



2013/12/03 12:36


▽雪見だいふく食べたい、凛真


冬は雪見だいふくを食べないと。真琴が持参した大きなコンビニ袋から、見覚えのあるパッケージがいくつも取り出される。赤地に白い大福の絵柄。冬になると店頭に並ぶ、季節の味覚。それにしても多い。
「……どれだけ買ってきたんだよ」
「あるだけ全部、って店員さんに伝えたらこれで在庫まで全部ですって」
「馬鹿か」
「そういうこと言うなら、凛にはあげないよ?」
「いらねえよ……」
目の前に着々と積み上げられる、雪見だいふくタワーを前に、食べてもいないうちからなんだか胸焼けがするような気さえした。漸く全て取り出し終えて、綺麗にピラミッドを形作った雪見だいふくを前に、真琴は満足そうに笑って一番上のひとつを手にした。



2013/12/03 12:35


▽妬きもちまこちゃん、怜真


僕よりも幾分体格のいい、真琴先輩を抱きしめながら、痛いほどの力でしがみついてくるこの人をとても可愛いと思う。喜びとともに、耳朶まで血が巡るようで、心臓がとても温かかった。肩口に顔を埋めている、真琴先輩の耳元で囁く。
「真琴先輩も妬くんですね」
「……妬くよ、俺だって」
「嬉しいです」
正直な僕の想いを口にすると、真琴先輩は抱きつく腕に容赦のない力を込めた。照れ隠しだろうとすぐに分かるのは、僕と同じだけ彼の耳朶が赤く染まっているからだった。



2013/11/26 21:49


▽空を映しこんだ水面、怜→真


僕の内にある、真琴先輩に対するこの感情が、決して友情には繋がらないことを、僕は知っている。
眩しい日差しを受けて輝く水面を二つに切り裂くように、飛沫を上げながら真琴先輩が泳いでいた。水の青さを映しこんだような空を真っ直ぐに見上げている。きっとゴーグル越しにも、先輩の視界は一面の青さに塗りつぶされていることだろう。空と水との青さについて、まだよく区別のつかない僕には、その純粋さがとても羨ましい。彼は美しい人だった。
「プールは空と同じ色をしてるね」
青をぶちまけたたくさんの水と、雲に良く似た飛び込み台。他愛のない会話の中で、真琴先輩が呟いたささやかな言葉が蘇る。僕を後押しする。僕は目の前の水面に飛び込む。呼吸が止まっても苦しくはなかった。繋がらない想いを抱えていることに比べれば、なんでもなかった。



2013/11/25 12:52


▽ポケモントレーナー渚くん、渚真


最近渚はよくゲームをしている。ついこの間発売された、人気シリーズの最新作らしい。小さな画面を覗き込んで、一生懸命遊んでいるから、傍目で見ていた俺も気になってしまって、背後から画面を覗き込んだ。その時はちょうどバトル中。“マコちゃん”と名付けられたキャラクターが、画面の中で飛び跳ねていた。
「俺?」
「かわいいでしょ。だから、マコちゃん」
「へぇ……」
俺の名前をつけられたキャラクターは、どうやら無事に相手との勝負に勝ったらしい。ひと段落ついた渚が覗く俺を振り向いた。画面を俺の目の前にかざし、渚が言うところの“マコちゃん”を指差してにっこり笑う。
「この子がね、僕のマコちゃん」
ゲーム機を傍らに置き、俺の頬に手を伸ばすと、鼻先が触れ合うほど間近まで引き寄せられる。
「こっちが、僕だけのマコちゃん、なんだよ」
「……知ってるよ」
「そう?」



2013/11/21 12:21


▽手を繋ぎたかった怜ちゃん、怜真


手を繋ぎませんか。と聞かれて、突然のことに戸惑っていると、返事を待たずに俺の手は怜の手のひらで包まれた。少し、強引。でも嫌いじゃない。
「こうしたかったんです」
「そっか」
「はい。ずっと。……嫌でしたか」
親からはぐれて遊んでいた子が、ようやくそのことに気づいたみたいに、急に不安そうな顔をした怜が俺を振り向いて問いかけた。自分から、思い切ったくせに、そうやってすぐ不安になって。
希望的な答えを待つ、怜のことを可愛いなと思う、俺はできるだけ美しく笑って「まさか」と一言だけ口にした。



2013/11/20 12:01


▽君のこと友達だと思ってた、渚+怜


指先ひとつ、動かすことも出来ず、仰向けに地面へと倒れた僕の傍らに跪き、ただ一人僕を追いかけて来てくれた渚くんはそっと囁いた。
「ねえ、どうして何も言わなかったの」
感覚の失われかけた手のひらを、掬い上げるように。渚くんの表情が、逆光のせいでよく見えない。彼の背後から差し込む光が、目映くて瞳が、細く、暗くなっていく。聴覚だけが鋭敏になり、一言さえ聞き漏らさない。
渚くんの、哀しそうな、声。
「僕はね、怜ちゃん。君のことを、ずっと友達だと思ってたんだ」
その言葉が、一区切りが、別れの言葉のようだったから、僕は濡れた唇を不恰好に震わせ、さよなら、と言った。きっとこれが渚くんに、僕が与えることのできる一番大きなものだったから。さよなら、さようなら、二度と会えない僕の友達へ。



2013/11/14 17:51


▽BD3巻FrFrネタ、怜真


「でね!怜ちゃんってば授業中に思いっきりばたーんって!!もう僕おかしくって!」
「やめてください!!そのことはもう忘れてくださいと言ったじゃないですか!!」
「ええー。忘れられないよ、だってあんな、ばたーん!!って……あはははは!」
授業中に居眠りをしていた怜は、夢の中での動作そのまま、机に突っ伏した状態で飛び込みをしてしまったらしい。その光景を思い出しては、大きな声で笑っている渚と、顔を真っ赤にして怒る怜。普段真面目な分、注目を集めてしまってさぞ恥ずかしかったことだろう。だというのに、放課後になってまで、渚に笑われ続けている。怜はやがて力なくうなだれて、渚は好きなようにまた笑っていた。
長椅子に腰掛ける怜の隣。空いたスペースに並んで座ると、まだ顔が赤いままの怜がちらりと俺に視線を向けた。その珍しい表情に、なるべくふんわりと微笑んで。
「夢でも練習してるなんて、怜はやっぱり努力家だね。すごいよ」
素直に、思ったことを告げると、もともと赤かった怜の顔が、燃え上がりそうな色に染まった。くぐもった呟きが耳に届く。
「あ、りがとう、ございます」
その言葉に安心する。よかった、少しは元気出してくれたかな。



2013/11/11 12:39


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