チョコレート、ダメ、ゼッタイ。怜真
2014/02/14 18:15



部屋の中心で、真琴先輩は目を閉じ、深く眠っていた。その頬の、白さと言ったら。まるで屍のようでいて、浅く上下する胸だけが、彼の生存を伝えてくる。足音をたて、近づいても、動こうとはしなかった。僕の存在に気づいていないはずがないのに。
傍らに膝をつき、揺り起こす。そうして漸く、瞼を重たげに持ち上げた真琴先輩が、僕を見てとても嬉しそうに笑う。
「怜の髪、真っ赤だね」
「赤く見えるんですか、貴方には」
「この前は、黄色かった」
「……チョコレートの食べ過ぎですよ」
床に寝転がる真琴先輩の、周囲に散らばるビニールを、拾い集めてポケットにしまう。身を起こした真琴先輩が、まだ少しだけ中身の残ったそれらに手を伸ばし、奪おうと試みていたけれど、僕はそれを許さなかった。
「あげません」
「バレンタインなのに」
「分からなくなりたくないでしょう」
不満げな顔をする彼の額に口付け、こめかみを指先でなぞった。
空気に混ざる甘い匂い。鼻腔から染み込み、頭の中身を腐らせるような。僕のことをじっと見つめ、真琴先輩は乾いた咳を繰り返しながら、機嫌良さげに鼻歌を歌う。
散らばっていた、最後の袋を拾い上げる。茶色いそれを、爪の先ほどすくい上げて、口に含もうとした僕の手を真琴先輩が強く、掴んだ。皮膚を噛み切る容赦ない力で、僕の指ごとチョコレートを食べた。目の前で、喉が上下する。
「怜は、だめだよ」
浮かされたような真琴先輩の瞳に、貫かれ、僕は息を呑む。真新しい傷の痛みと、痺れるような甘い匂いに、涙が出た。どうして、という僕の呟きに、真琴先輩は一瞬だけ、昔のような笑みを浮かべた。





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