花が良く似合う、儚げな雰囲気の少女だった。
「なまえ…またお前はこんなに怪我をして…」
「だってノロさん強いからー」
「ノロとは辞めておけって何度も言っているだろ」
「アヤトだと手加減されるし、ヤモリは怖いし、瓶達は二人掛だから疲れるし…やっぱりノロが一番なんだよね〜」
俺が拾ってきたこの女は死を恐る様子が初めからなかった。儚げで、今にも消えそうな癖に妙に戦闘に慣れていて俺はすぐにこいつは使えるからとアオギリに入れた。
下っ端の連中にも気を使う様子が見れて純粋な心を持つなまえ。
「タタラさんはいつ私と殺り合ってくれるの?」
その細い首をへし折れば彼女は一瞬で息絶えるだろう。
「俺はなまえとは殺らないっていつも言ってる」
「だってー…」
タタラさんに殺してもらえたら幸せだなー、だなんて残酷で甘美な言葉を吐く彼女。
自分より弱い生き物のことは気にする癖に自分の命には興味がないだなんて、どこまでも分からない奴だ。
「白鳩がじきに攻めてくる。準備しろ」
「あーい」
「その前に怪我の手当てもしておけ」
「え、いるかな?」
いるだろう、と念を込めてなまえの目を見ればその水晶玉の様な大きな目は揺らいだ。
「分かりました手当てしてもらいまーす」
「誰に頼むんだ」
「んー、アヤトとか?」
「…霧島は不器用だろう。俺がやってやる」
来い、と言えばなまえはおとなしく近寄って来て怪我した場所を差し出した。
「随分出血してる」
「うん、そりゃノロさん遠慮ないからね」
「…」
「いっ…たい…!」
傷口に舌を擦り付けてその血を舐める。喰種間での共食いが行われない最も大きな理由は不味いからという事であるがなまえは存外美味ではないかと思わせるくらい血が甘い。
「…甘いな」
「そ?自分じゃ思わないけどねー」
「消毒くらいしておけ」
「今タタラさんがしてくれたじゃない」
首を傾げて笑うなまえが憎らしくてその唇に噛み付いた。
「ん、っふ…い、ったい!!」
「…やはり甘いんだな」
「タタラさんの歯鋭すぎ。痛いよもう」
噛みつかれて出血する唇を自分で舐めるなまえは官能的でたまらない。口に残ったなまえの血液と唾液の味が頭の作用を鈍らせる気さえした。
「…なまえ」
「ん?」
「白鳩の件が終わったら抱いてやる」
「え?殺してやるじゃなくて?」
「ああ」
目を伏せればなまえはふふ、と笑って嬉しそうに楽しみにしてるね、と言った。
そのはずなのに目の前の血だまりは相も変わらず甘ったるい匂いを充満させながら広がっていく。
「…」
じっと動かないなまえの身体を見つめる。どこまでも儚くて美しい女だった。と思う。
「誰に殺られたんだなまえ」
周りには無数の人間の死体が転がっていてその中でなまえは一人、静かに横たわる。彼女の細い体を抱き上げて乱れた髪の毛をさらさらと流す。
「…俺に殺されたいんじゃなかったのか」
何も言わない冷めた唇は血の気が引いており、白かった肌を一層白く見せた。
「俺以外に殺されて死ぬなよ」
今胸にある虚無感は愛だったのかはもうわからない。彼女の儚くて美しい雰囲気は消え、ただの肉片になってしまった。
「…なまえ」
月明かりに照らされる白い肌に唇を寄せてまた静かに噛み付いた。
明日を知らずとも