模倣とペルソナ | ナノ


  06




「柳くん。」
「どうした柳生。」

 前回の練習試合について書かれたデータノートを借りたいとか、つらつらと適当なことを云ったら、柳くんは快くノートを貸してくれた。
 快く、が本当のところどうなのかは分からないが、一見したところ自分への不信感などは抱いていないように思う。
 自分はそれを内心ほくそ笑みながら……おっと言い方が悪いか。心を踊らせながら受け取った。勿論表情には出していない。そんなことでは詐欺師の片割れとして失格だ。

「さて。」

 ノートを見る。家に帰ったら、ノートの中身をただひたすら摸写しようか。
 角多分それが一番良いのだろう。しかし夜通しやったとしても、とてもではないが、終わるのは少なくとも明朝だ。……寝不足になるな。明日の授業で寝なければ良いのだけれど。なんて、考えた。


模倣とペルソナ


 柳くんのデータノートには、予想の斜め上を豪快に三回転半しながらいかれたような感じだった。相手のフォームの癖や苦手なコース、得意のコース。果てには、精神状態の予測──あくまでも予測である。精神状態を全て把握しているとしたらそれこそ神だ──まで書いてあるのだから恐れ入った。しかも一人の選手につき最低でも一ページは使っているのだ。

「……」

 どうしたものか。思わず頭を抱えて唸った。やるのは良い。仕様が無いのだから。だがしかし。時間が、無い。ノートの書き換えは早い内に行わなければ何度か柳くんがノートを見返したときに覚えている可能性がある。

 暫く唸りながら考えてはいたものの、最終的に考えても無意味だ。という結論に落ち着いた。
今日はただひたすら、ノートの字を似せることに専念しようと思う。

 まず自分の字を五十音全て書く。漢字については──まあどうにかしよう。そして自分の字の癖を把握し、更に柳くんの癖を理解する。自分の癖が字に出ないように最新の注意を払いながら、一字一句。更には図まで。丁寧に違うノートへ書き写していく。
 この作業をしただけで大分夜は耽っていた。

 終わる気が、しないのだけれど。


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