模倣とペルソナ | ナノ

  03



「……どちらかと云うと、宮野はサボりがち、と云うか、練習で手を抜いているだろう?だから彼を選ぶことに多少なりとも抵抗があってね。」

 眉を下げながら笑う。こういった表情が似合うなあだなんて、少し場違いなことを考えながら、適当に相槌を打った。
 頑張っている市原くんを入れたいものの、実力は宮野くんの方が上だから、どちらを選ぶべきか悩んでいる、と。
 そんなの、悩むような問題でも無い気がするのだけれど。


模倣とペルソナ


 結局、幸村くんがどちらを選ぶのか悩んでいる内に、柳くんが来てお開きになった。自分だったら迷いもせずに宮野くんにするのに。なんてことを考えながらワイシャツのボタンに手をかける。

「柳生。」
「はい、どうかなさいましたか柳くん。」
「精市から聞いているか?」
「ああ、今週末の練習試合のメンバーについてですか?」
「そうだ。柳生はどちらを入れるべきだと考える?」

 同じことを質問されるとこんなにも面倒なのか。話を簡略化するために、理由を言わず「宮野くんですね。」と答えた。

「……驚いたな。」

 柳くんが目を見開く。おお珍しい、明日は雨なのかもしれない。なんて感想を頭の片隅に浮かべながら、何故ですか? と問いかけた。おや、また目を閉じてしまった。

「てっきり柳生は、市原を選ぶものだと思っていたものでな。……宮野を選ぶのは、確率的には11%だった。ふむ。データに追加しておこう。」

 どこからともなくノートを取り出して書き綴る。その様子を見てはっとした。そ、うだ。自分は「紳士」なのだから、紳士的な思考、対応が求められた筈だのに。「紳士」ならば、どちらを選ぶかと聞かれたら「どちらも選べないが強いて云うなら練習に、より本気で取り組んでいる市原くん」と答えなければならないのだ。
 やってしまった。
 これでは柳くんの中で、今まで必死に──という訳では無いかもしれないが──作ってきた自分の「紳士」というイメージが、崩れる。
 先刻の自分に呪いの言葉を吐きたくなった。もっと云えば今そのことについての質問を投げかけてきた柳くんも呪いたくなった。
 ──どうにかして、今の回答を改訂しなければ。頭の中でぐるぐると思考の渦が巻き起こる。幸いなことに今部室の中にいるのは自分と柳くんの二人だけだ。
 幸村くんは何か用事があると云って校舎へ行った。今日早く来たのはその用件を済ませる為でもあるのだろう。
 部室から校舎までの距離は少なからずある。つい先程部室を出たばかりの幸村くんがこんなすぐに戻って来る何ていうことは殆ど有り得ない。
 ならば、先刻の問答は自分と柳くん以外に知る人間はいない。
 そしてある程度考えて、何処か、納得している自分がいた。ああ、だから自分は精神異常者なのか、と。

 だって、殺せば良いんだ。という考えが、始めから頭の隅に鎮座していたから。

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