「おはようございます。」
カチャリと音を立てながら部室の扉を開ける。鍵が開いていることに驚いた。この時間帯は柳くんも殆ど来ない筈なのになあ、なんて考えて首を傾げたことは記憶に新しい。
「おはよう。柳生。」
「おや幸村くん、随分とお早いですね。」
「フフ、今日は少しやることがあってね。」
ほら、今週末、練習試合があるだろう?
そう云って幸村くんは眉を下げながら笑った。心なしか元気が無い。はて、どうしたものか。
「……どうかなさったのですか?」
そう聞けば、待ってましたと云わんばかりに幸村くんは顔を綻ばせる。誰かに話をしたかったのだろう。こういう時は大人しく聞いているのが一番良い。幸村くんが口を開くのを待った。
「実は、」
模倣とペルソナ 話を要約すると、こうだった。
今回の対戦校は、今神奈川で立海に次ぐ実力を持つ学校で、偵察の為の練習試合らしい。レギュラーはそのとき丁度県外遠征が被っている為に、練習試合には参加することができない。
結果、二軍であるBチームを練習試合に行かせるのだが。
「Bチームのメンバー編成で悩んでいる。と」
「そうなんだよね」
ふう、と溜め息を吐いた幸村くんはシャーペンを持っていない手で頭を掻く。そもそも、何故こんなことを生徒が考えなければならないのか。我々は中学生だ。いくら私立で、強豪で、人数が多いとはいえ、こういった面まで生徒が決めるというのは如何なものか。
そうやって考えていくと、結局悪いのはいつも顧問になってしまう。まあ素人なのだし、しょうがないと皆は云うけれど、正直やりづらいものがある。
「……それで、今何人程決まっているのですか?」
「ああ、実はこの二人の内どちらを選ぶかで悩んでいてね。」
「二人?」
「そう。それ以外はもう決まっているんだ。」
紙を持ち上げ、見る? とでも言うように幸村くんに紙をずいと押し付けられる。
ずらりと名前が並んだ枠の中には、一つだけ空欄がある。欄外には、悩んでいるという二人だろうか。シャーペンで薄く二人分名前が書いてあった。
「……どっちが良いと思う?」
「実力的には、宮野くんでしょうか。左利きですし、何よりも将来有望ですからね。経験を積ませるのにも丁度良いのでは?」
そう言って眼鏡をあげる。
本当のことを云うと、幸村くんが悩んでいる二人は実力の差が少ないながらあった。皆が、なによりも自分達がそれを良く知っているだろう。
しかし私の返答に幸村くんは良い顔をしない。
「……彼はさ、部活の中で、とても頑張っていると思うんだ。」
彼とは、宮野くんではないもう一人の、市原くんだろうか。そういえば彼は三年で、同級生だった。確かに市原くんはとても部活を頑張っている。下手をしたら仁王くんよりも練習メニューをこなしているかもしれないと云える程に。