08
「どこにいるんだ、あいつは。」
いくら探してもどこにもいない。俺にこれだけの手間を取らせたんだ。この位はぼやいても許されるだろう。
形容し難い音が廊下に響く。上履きの底特有の音がどうにも苦手だった。
自らの呼吸音がどうしようもないくらいに大きく響いている気がして、何を考えているのか我ながらわからなくなった。
ともかく、ここまで探してあいつ……英智が見つからないのはあまり良いことではない。どこか敷地内を適当にふらふら放浪しているのならば良いが、どこかでぶっ倒れていては洒落にならん。元々英智から書類に判子を貰うために探していた筈だのに、途中から趣旨が変わってきたな。度し難い。
校内を虱潰しに探しても、案の定英智は見つからなかった。仕方がない。少し外を探してみようと決心して、上履きから外履きへと履き替える。
外へ出て適当にふらふらと歩いていると、ふわりと風がすり抜けた。この季節特有の風だ。髪が揺れて、肌を擽られる。心地が良い風だった。
「ん、」
暫くして、ふと視線を逸らしたら、少し遠くに日々樹らしき人影が見えた。日々樹に聞けば英智がどこにいるかわかるだろうか。また変な事をしていないだろうなという懸念と、英智のことを知っているかもしれないという期待が入り混じって、ほんの少しばかり足取りが早くなる。
「君を、愛してる。」
ひゅ、と喉が音を立てた。その後すぐに呼吸が荒くなる。一瞬だけ見えた、日々樹に想いを伝えていた相手。間違える訳がない。あれは、絶対に
「……本当に? 貴方は、そういうことを冗談交じりで言いますから、」
「本気に、見えないのかい? 僕は本気で言ってるんだ!」
「そんな……」
二人の切迫感が、こちらにも伝わってくるようだった。あんなに声を荒らげている英智を見たことがない。日々樹の声からわかる困惑した態度に、本当なのかもしれないと、今更ながらに思った。
まて。
まてよ。
自分の想い人の顔が頭を過ぎる。爽やかな雰囲気を帯びながら笑っている。そして、そいつの想い人は、英智だ。
このことを知ったら、どうなる?
想いを寄せる相手が、告白しているのだ。俗に言う失恋ということになるのではないか。頭の中で考える。
もし、守沢が他の誰か、しかも自分の知っている人間に告白をしたら。いや、既に英智のことが好きだったのだから、こういうことを考えてもあまり意味は無いか。
ともかく、このことを守沢に知られてはまずい。何がまずいって、あいつがこのことを知ったら絶対に悲しむだろう。
好きな奴の悲しげな顔なんぞ、見たくはない。