06


 結論から言おう。はぐれられなかった。
 途中おばあさんを助けたり妊婦さんを助けたりおばあさんを助けたりしたからな。はぐれられるチャンスは盛大にあったわけだ。しかし何故それが叶わなかったのか。それは他ならぬ蓮巳が可愛いから! すまん冗談だ。
 いや、実際に可愛かった。まあ言うまでもない。だからといって見蕩れていたからはぐれられなかったとなるとそうではない。
 まあ、修学旅行とかで一緒になっていたからわかっていたことなんだが、というか、結構有名なことなんだ、蓮巳ってな。方向音痴なんだよ。
 可愛いだろ。あんな高圧的な態度であんな顔して方向音痴なんだぞ。可愛くないか。

 さて、今の状況を説明しよう。パスタ食べてる。
いやあ、ここの店は美味しいな。瀬名が選んだらしい。今度から俺もここに来よう。……しかしだな。何故、茄子が入っているんだ。
 瀬名が隣でニヤニヤしている。反対側を見ると羽風もニヤニヤしている。お前らグルか。
 ぐううどうするべきなんだこれは。残す訳にはいかないしかし絶対に食べない。なんて矛盾だ自分。

「……守沢」

 正面から声をかけられる。顔を上げると、目の前に蓮巳。どうした。

「茄子、食べてやろうか。」

 天にも上る心持ちだった!
蓮巳が! 俺の! 茄子を! 食べるだと! 流石に俺のお茄子をここで出す訳にはいかないな! すまん冗談だ。沸き上がる嬉しさを心に秘めて対応する。う、嬉しい。

「すまん、頼んでも良いか」
「構わない。ほら、俺の皿に乗せろ」
「助かる!」

 フォークを使ってスプーンに茄子を乗せる。さらばだ茄子。蓮巳に食べられるのなら本望だろう。「ちぇ〜つまんないの」「なんで食べてあげちゃうかなぁ」「ふふ、優しいね敬人は」みんな俺のことをなんだと思っているのか。まあ良い。蓮巳可愛い。

 天祥院が口を開く。「それで、今度代役をね」天祥院に返事をしてから食べるのだろう。蓮巳のパスタとは味付けが違うから、茄子単体で食べるようだ。フォークでぶっ刺している。「そうなのか……。まあ、無理はするなよ。」蓮巳の口に、今! 茄子が入った!
 咀嚼されていく茄子。あれ俺の茄子なんだ。良いだろう。今だけは茄子のことが好きになれそうだ。ありがとう茄子。食べないけどな。

「……なんだ。俺の顔になにかついているのか?」

 どうやらずっと眺めていたらしい。怪訝そうな顔をしてこちらへ視線を向けてきた。その視線さえ愛しい。

「いや、よく茄子を食べられるなあと思ってな。」
「貴様人に寄越しておいてその言い草はなんだ。」
「悪気はないんだ!」

 出来る限り満面の笑みを浮かべる。「そうか。」蓮巳はまたパスタを食べ始めた。


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