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にぃ、出来得る限りのあくどい笑みを浮かべて、教室の出入り口の方を見遣る。三人もいたのか、こんな時蓮巳の言葉を借りるなら、度し難い。だな。
「はは、残念だったな! 引っかかったなこの童貞め!」
盛大に笑いながら指をさせば、わかりやすいくらい怒っている羽風。おっと、流石にやり過ぎた気がしなくもないな。
「このやろぉ……!」
大股でこちらへ近付いてくる羽風に危険を感じ、前の扉を開けて廊下へと飛び出た。蓮巳も俺の後ろに続く。
少し時間を開けて、羽風も廊下に姿を現す。あの様子だと、蓮巳と一緒に走って逃げるのは難しいなと判断をして、蓮巳を自分の方へと引き寄せる。背中と膝裏に手を回し、体重を後ろ気味にして、一気に持ち上げた。
「守沢っ、貴様……!」
怒り声を出す蓮巳をちらりと見てみると、真っ赤に染まった耳が目の端に映る。可愛いなあなんて考えて、首に腕を回すように指示をした。
「神崎、だったか。に、一度姫抱きをされていたろう? あれが羨ましくてたまらなかった。」今は、蓮巳が俺の腕の中にいる。そのことだけで胸がいっぱいになった。蓮巳可愛い。
「落としたら承知しないぞ」と、顔を真っ赤にしながらいうものだから、それがまた愛おしさを増進させる。
「ともかく! これで仲直りだな!」
後ろから追いかけてくる羽風に聞こえるように、できる限りの声で叫んだ。俺の意図を察したのだろう。「うるさい! まだ貴様を許したわけではないからな! とにかくおろせ! っくそ!」なんて叫びつつ、蓮巳は俺の頭をぽかぽかと殴ってくる。
これにすら愛を感じるだなんて、俺は相当重症だなあ。
今の幸せを噛み締めて、そして、もう離すまいと腕に力を入れて。もう一度愛を囁いた。