17
次の日になって、朝一番に決意をしたことは、言わずもがな、守沢に自分の気持ちを伝えることである。昨日は嬉しさのあまり何も言えなかったから、守沢へと想いを告げていないのだ。
自然と上がる口角に喝を入れて気を引き締める。
守沢に話がある旨を伝えて、空き教室へと足を踏み入れた。
どうやって言おうか。顔が強ばっていないだろうか。なんて、余計なことばかり考えてしまう自分に腹が立つ。
「……守沢」
顔が強ばるのがわかった。自分のではなく、守沢の顔が、だ。
緊張しているのを悟られたくなくて、思わず床に視線を向ける。自分の心臓がどくどくと脈を打つのがわかる。
「俺も、守沢が……」
あと三文字だのに、言葉が出てこない。好きだ。お前が好きだ。「すきなんだ。」こんなか細い声を出したのは生まれて初めてだった。守沢に聞こえただろうか。不安が胸をぎゅうと締め付ける。恐る恐る守沢へと視線を向けた。
「ありがとう!」
にっこり、なんて効果音がつきそうな程眩しくて、爽やかな笑顔が、目に焼きついた。
こんな幸せなことがあって良いのだろうか。
守沢の笑顔が眩しくて、最高に綺麗だったから、ずっと見つめていたかったのに、何故か目が潤んでくる。ぽろりと一粒零れた雫を皮切りに、ぼろぼろと涙が出た。本当に涙腺が弱いな、更年期か、なんて考えて、でも嬉しくて。
なんて言葉をまとめれば良いのかわからない、ただひたすらに幸せだった。
「蓮巳。」
「なん、だ」
今自分はこんなにも喜びで溢れているのに、それを表す言葉が出てくることはなかった。反対に、涙だけが溢れていく。
「俺と、付き合ってください。」
いつにも増して真剣な声色で言われ、どうにかして涙を拭って、守沢を見た。その表情は一等格好良くて、言葉にできない程だった。嗚咽まじりの掠れた声で了承の返事をすると、守沢の表情が緩むのがわかった。
「ありがとう。よろしく頼む!」
すんと鼻を鳴らして、どうにかして涙を止めた。守沢との交際が決まった今、やらなければならないことがある。
「守沢、初めての共同作業だ。あいつらを、どうにかするぞ。」
先程より心做しか小声で、守沢へ語りかける。
一瞬だけ、視線を後ろの扉の方へ向けると、直ぐに理解したらしい。守沢が悪戯小僧の目付きになった。
「昨日の恨みだ。そのまんま同じことをやってやろう!」
そう言って、守沢に抱き寄せられる。顔が極限まで近づいていた。お互いの吐息がかかる距離の、あまりにも近い守沢の顔に、驚愕と感嘆の感情が爆発するようだった。ニッコリと守沢が笑う。
ああ、なるほど。これは昨日英智がやっていたことか。
「羽風はああ見えてピュアだからな、きっと止めに入るから、そこを狙うぞ。」
「ふん、誰にものを言っている。」
少しだけいつもの調子に戻れた気がして、自然と笑が零れた。くすくすと小声で笑いあって、そして、背中に衝撃がくる。何秒かして、扉を豪快に開きながら、羽風が登場した。