13
「敬人!」
南雲くんに教えられた通りの場所に行くと、目を疑うような光景が広がっていた。
地面に仰向けに倒れている我が幼馴染みと、そんな幼馴染みに馬乗りになり脱力しているクラスメイト。一体どんな状況だろう。喧嘩にしか見えないのだけれど、正義を信条にしている千秋のことだ。敬人を殴るなんてことはしないだろう。それでもこの雰囲気は良いものとは言えない。渉とアイコンタクトをして、敬人から千秋を引きはがす。
「あ、う、蓮巳、すまない。すまない……!」
千秋は懺悔するように言った。敬人の方を見て、何の反応も無いところを見ると相当お怒りらしい。こうなってる敬人は止めようにも止められないから、放置しておくしかないのだけれど、敬人をここまで怒らせるだなんて、一体千秋は何をしたのか。
千秋が膝立ちで敬人に跨っていたということは、それこそ本当に殴り合いの喧嘩にでも発展しかけたのか。それとも、ただ単に何かしらが原因で暴れ始めた敬人を力尽くで抑え込んだのか。どちらもそれらしい内容で、なんとも言えない心持ちになる。
「敬人、立てるかい?」
「……ああ」
少し時間差はあったものの返事をくれた。意識ははっきりしているし、殴られたりはしていないようで胸をなで下ろす。「何があったの。」単刀直入に、疑問を敬人にぶつけた。視線を落とし、僕から顔を背けて、敬人はぼそりと「死ぬかと思った」と呟いた。
死ぬかと思った、だって?
普段の僕であればここで「君は死地に陥ったことは無いだろう」とか「それを僕の前で言うの?」なんて考えて、しかも敬人が相手ならばそれを普通に声に出すだろう。でも、そんな気はこれっぽっちも起きなかった。そもそも、敬人が僕の前でこんなことを言うこと自体が初めてだった。だからこそ、敬人と千秋の間に何が起こったのか。それが気がかりでならない。
敬人は憤怒しているのか、それとも驚愕し、恐怖しているのか、全くわからなかった。
「……」
こんな時に、何の声もかけられない自分が恨めしくなった。何が起きたのか知りたい気持ちが無いと言えば嘘になる。でも、こんな風になっている敬人を見るのは初めてで、なんて声をかければ良いのかがわからない。
「敬人……」
えも言われぬ雰囲気がその場を包み込んだ。