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今までに聞いたことの無い、あの人の荒らげた声。なんて言ってたんだろう。
胸倉に掴みかかるのが、らしくなくて、というか、信じたくなくて。
向こうはこっちに気付いているのか。
そんなことを頭の片隅で考えながら、もうその様子を見たくなくて、思わず目を瞑って、耳を塞いで、その場から駆け出した。
誰かいないか、出来ることなら、尊敬するあの人が良い。
全速力で走り続ける。疲れも何も感じなかったのは何でだろう。どこへ向かっているのか、果てには今どこを走っているのかさえ知らずに、ただ只管に足を動かす。
ふと、声が聞こえた。
あまり接点の無い三年生の先輩達。というか、普段ならば自分が目の敵にしている人もいる。
藁にも縋る思いだった。落ち着かないまま、先程の状況を口にする。支離滅裂で、何を言っているのかわからないことの方が多かったはずなのに、先輩達はきちんと話を聞いてくれた。
「そうか、わかったよ。ありがとう。」
にこりと儚い笑みを浮かべた会長に、どれだけ心が救われたことだろう。