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「笑え。」
「……は、」
「だから、笑えと言っている。」
目の前の蓮巳はおかしなことを言った。失恋をしたと告白したばかりの自分に笑顔を要求してくるだなんて、なんて鬼畜だろうか。そもそも失恋相手はお前だというのに、なんてむごい、ことを。
「貴様は、失恋をしたからと、そいつを諦めるのか?」
何を言って
「俺だって、随分前から失恋している。いや、ちがうな。俺が想いを寄せる人間には、既に想い人がいた。と言った方が正しいな。あいつには、幸せになってもらいたい。けれど、でも、諦めきれない自分がいるんだ。」
蓮巳、はすみ。
違う。完全にこいつは、勘違いをしている。俺が、天祥院か日々樹のどちらかを好きだと、錯覚している。思い込んでいる。
俺が好きなのはお前なんだ。紛れもない蓮巳敬人が好きなんだ。だからこそ今こんなにも落ち込んでいて、追いかけてきてくれたことに嬉しさと、それと同時に悔しさとか惨めさとか、色んな感情が溢れてきて止まらないんだ。この涙だって、とめたいのに、止まらないんだ。
「だから、諦めるな。いや、頼む。諦めないでくれ。お願いだ。自分勝手だとは思っている。俺が、あそこで貴様をきちんと牽制出来ていたら、あの場面を見せなければ、こんなことには、貴様に、そんな表情をさせることにはならなかったというのに。」
蓮巳の声から、不安とか焦りとか、いろいろなものを感じた。そんなにも俺を心配してくれているのかと嬉しくなった。でも、それでも蓮巳の想い人は天祥院か日々樹のどちらかなのだと思うと胸が締め付けられる。
お前がそんな風に優しくしてくるから、今も俺はこんなにも苦しんでいる。
お前が愛らしいから、狂いそうになるほど愛おしいから、なんでそんなにも、人の心を引っかき回すのか。ああもう、わけがわからない。
「守沢、お願いだ。貴様に、そんな表情は似合わない。」
それから先は、何も聞く気は起きなかった。考えるよりも先に体が動いた。
「笑ってくれ。」と、蓮巳がもう一度言おうとしたのだと思う。蓮巳が口を開いた瞬間、綺麗に整えられた胸倉を思い切り掴み、反対の拳に力を込めて、その顔に、俺が愛する、その、顔に
一撃を。