ensemble | ナノ
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「おらよ」
鬼龍から手袋を渡される。な、んでだ。
「あの、」
「てめぇは勘違いしてるようだけどよ、蓮巳は。あいつは俺のことを好きじゃない。そして俺もあいつのことを好きじゃない。いや、もちろんユニットリーダーとして、友人として、アイドルとしては好きだけどよ」
鬼龍が薄く笑みを浮かべた。何故だ。嘘だ。日々樹は蓮巳のことを見ていた。だから、蓮巳は鬼龍のことが好きなんだと、思って。
「あいつが俺に向ける感情は、恋慕じゃねえよ。」
いつまで経っても手袋を受け取らない日々樹に、鬼龍は強引に手袋を握らせた。
「紅月は、家族なんだ。だからよ、日々樹。お前も好きなようにしろや」
いま、この時間ならまだ教室にいるんじゃねえか?
誰がとは聞かなかった。それから自分は、何を言ったのか分からない。いつの間にか駆け出していた。
教室に彼はいなかった。鞄はあったのでまだ帰ってはいないのだろう。適当な場所を回っていると、扉越しに誰かがいるのが見えた。あの髪の色は、きっと。
口を開く。声が出なかった。鬼龍はああいっていたけれど、それが本当なのかは本人のみぞ知る、だ。声をかけようにも、かける勇気がなかった。
「……蓮巳か?」
かけた声は、鬼龍の声色だった。これから当たり前のように逢瀬を重ねるようになり、そして心に大きな穴ができていく。もう既に正体がバレていることすら知らずに、日々樹は一人で苦笑した。
日々樹がもう一度、キスをするまであと──。
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