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 日々樹渉は、蓮巳敬人のことを好いていた。ライクではなくラブ。勿論のこと、性的興奮だってする。髪から覗くうなじに、時折見せる花が綻ぶかのような笑み。日々樹の中で蓮巳は、初めてあった時の印象とは程遠い、例えるのなら童話の中のお転婆でありながら、どこか救いを求めているお姫様のような、そんな存在に成っていた。
 そんな蓮巳は天祥院英智の右腕である。対して日々樹は天祥院の左腕、と称されている。一部から天祥院の両腕と呼ばれていることを知った時は、天にも昇る気持ちだった。まるで蓮巳と一緒にいることを、肩を揃えていることを周りから、世界から許されているかのような感覚にさえ陥った。

 なにより、蓮巳は見ていて飽きることが無かった。日々樹が退屈を嫌っていることもある。その点も彼が蓮巳に惚れた要因の一つなのだろう。それ故に、日々樹は蓮巳のことを見ていた。
 しかし、だからこそ気が付いた。表情と声色の些細な変化は、声帯模写や人を観察することに長けていた日々樹だからこそ、その目に留まった。

「ああ、敬人は、彼のことが好きなんですね。」

 鬼龍紅郎。蓮巳と同じユニットの三年生だった。鬼龍と日々樹は同じクラスであり、だからこそ鬼龍がどれだけできた人間かよく知っていた。
 勝ち目がないだなんて、そんなことは微塵も思わなかった。まず競うつもりすら無かったからだ。

 日々樹とは変人であり、変人とは日々樹である。
 日々樹の思考回路は他の人間と全く、とはいかずとも、違うことが多かった。日々樹本人もそれは理解しているし、それを誇りに思っている部分さえある。そうしなければ心が壊れてしまっていたのだ。日々樹は自分にそう言い聞かせて日々を過ごしている。
 そして、そんな変人日々樹の思考は、蓮巳の取り合いという勝負を鬼龍にふっかけるまでに至った。

 しかし前述したとおり、日々樹は本気で勝負をする気はなかった。勝負というものは所詮無理矢理結果というものを付けたに過ぎないし、何よりもこれは勝負ではなく、如何にして鬼龍に蓮巳のことを意識させるか、というものである。

 これが人への関心がなかった日々樹の、精一杯の愛情表現だった。自分が想いを寄せる人に倖せになってもらいたかった。想い人がその事を知らなくとも、想い人の倖せに少しでも関わっていたかった。

 日々樹の愛は酷く不器用で、そんな自分の不器用さに気が付かないまま、日々樹は必死に愛を紡ぐ。最愛の人のために。

 人の気配がしない廊下で、夕日に照らされながら、日々樹は白い手袋を握り締めた。


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