ensemble | ナノ
4
「ん、」
視界がぼやける。ここはどこだ、机の上か。いや、ああそうだ。
「生徒会室か」
ぼんやりとした頭のまま時計を見遣る。見えない。何故だ。眼鏡がないのか。眉間に皺を寄せながら辺りを見回して眼鏡を探す。あった、のか?
恐る恐る手を伸ばしてみると、眼鏡であっていたようだ。良かったとほっとして手に取り、かける。視界がクリアになったので改めて辺りを見回した。
時間が予想以上に経っていた。どこが区切りの良い時間だ。自分の体たらくにはあと溜め息を吐く。とさりと、後ろの方から音が聞こえた。
なんだろうと思い後ろを振り向くと、自分が英智のために生徒会室に置いておいたブランケットが落ちていた。何故だろう、そう考えると不可解なことが多い。まさかと思い卓上の書類を漁る。
「……なんだと、」
書類に、記入すべき空欄を見つけることは出来なかった。
書類が終わっている、さらに言うと、自分は眼鏡をかけながら寝ていたはずだ。ブランケットなんぞかけて寝た覚えもない。まさか夢遊病なのだろうかと、えも言われぬ不安が自分を襲い、どこかぞっとするような感覚がした。
しかし、今はそういうことを言っている場合でもあるまいし。ともかく、書類に不備がないかを確認してしまおうと思い、深呼吸を二三度してから、机にきちんと向き直った。
そういえば。
これもなかった気がするな。と、視界の端にちらちらと映っていた赤いものを手に取る。たまに食べるその菓子は、自分の中で比較的好きな部類に入るものだ。誰かが置いていったのだろうか。なんて考えて手の中で弄ぶ。
……ああそうか、あいつが。
自己完結して、菓子を机に置いた。ふふ、と笑いが零れる。らしくないとは思ったが、それでも笑みを堪えられなかったのだ。
袋越しにパキリと折って、袋を開けた。片割れを手に取って口に入れると、チョコレートの甘さが口の中に広がる。唾液腺が弾けそうだ、なんていうとある漫画の台詞を思い浮かべて苦笑した。
疲労感のある考えなんて、まるでどこかに飛んでいってしまったかのようだった。
甘いな、と一人呟いて、そのまま荷物をまとめる。あいつがやったのなら、書類は心配ないだろう。よくよく見ると、確かに字の癖がその人間が誰なのかを示していた。
それから暫くの間、生徒会室にこっそりとキットカットが置かれることになるのだが、それを見るあいつの挙動が不審になるのを見て、俺は失笑を禁じ得なかった。
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