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 俺にとって英智とは、一体何なのだろう。

 いや、そんなことわかっている。英智は俺にとって親友で、なくてはならない存在だ。けれど、いつからだろう。英智に対して恋慕を抱くようになったのは。否、自分の持つ感情を恋だと自覚したのは。

 英智のことが放っておけなかった。小さい頃から少し他の子供とは違う雰囲気を纏っていて、何故だか「側にいてやらなくては」という義務感が芽生えていた。
 子供ながらにそんなことを感じるほど、幼い頃から英智は儚くて、脆かった。今もその印象が拭われることはないし、なにより、そうしていなければ自分がどうにかなってしまいそうで。

 ただ、そんなことを言える筈もなかった。傍にいた男が自分に想いを寄せていただなんて、英智が知ったらどうなることだろう。もともと非生産的で、不安定な恋だ。自分の胸の内にだけ留めておくべきだろう。
そんな覚悟も、していた。

 俺は、英智に依存している。のだと思う。
 英智がいなければ何も出来ない。そこまではいかないが、なにしろ英智のためのユニットを作るくらいだ。そんな都合で創ったユニットに入ってくれた二人には頭が上がらない。
 そんなユニットも、あの夏に、ようやっと自立──と、呼べるのかは分からないが──をした。あの時の英智はとても楽しそうで、そして何故か苦しそうだった。

 俺がいないと何も出来ない。のではない。
 俺が無理矢理行なっているんだ。哀しかな、そうすることでしか自分の存在意義を見い出せない自分がいる。
 英智はいつも笑顔で、俺の行ないを許容する。受け入れる。それがどんなに嬉しくて、そして恐ろしいことか。
 英智の笑顔は、どこかハリボテのように思えていた。にこにこと、あの笑顔の下でいつも享楽やスリルを求めて、自分が生きているということを実感しているようだった。
 平気で人のことを振り回す。子供のように無邪気に、時に残酷に考え、それを実行する。かと思いきや、時たま大人のように現実的で、堅実な考えをして、行く末を見つめている。まるで雲のような人間だった。

 実際、英智は空高い自分たちでは届くことのない場所にいるのだと思うし、何より、沢山の顔を持っている。恵みの雨を降らせたり、豪雨で災害を引き起こしたり。台風にだって成りうるのだ。遠く遠く疎らになってゆっくりと空を泳いでいると思えば、いきなり近くになって太陽を、光を遮ってしまう。そんなところもそっくりだ。何より、雲も、英智も、とても儚い。
すぐに霧散してしまいそうで、どうにかして助けられないかとこちら側が手を伸ばしても、届かない。

 もし、英智が消えてしまいそうになっても、自分たちがどうこうできるものではないのだと、己の無力さを改めて認識させられる。

 英智が良く言うブラックジョークを聞く度に、自分の心がちくりと痛むのを感じた。


 学院を卒業してから、社会に出た。学院とは違う新しい世界の中で、俺は英智を支えた。
 神崎がいないのだから、紅月としての活動はまだ出来ない。また三人揃ったら紅月というユニットで活動を始めよう、と。そういう約束だった。
 荒波に呑まれながら精一杯に過ごした一年は早いもので、神崎が学院を卒業後、また紅月として活動を始めた。
 それから数年がたって、業界での立場も比較的安定してきた頃に、その話が浮かんできた。
 夢ノ咲の卒業生達による合同ライブだ。
 「敬人と共演できるね」と言った英智の笑顔は、今でも忘れられない。

 ちまちまと共演をしてきてはいたが、こんな風に共演をするのは初めてだった。ガラでもないが、胸が踊る。今日は顔合わせだ。とは言っても、殆どが顔見知りなのだからあまり新鮮な感情は抱かないだろうが。それでも、足取りは軽やかなものになる。

 ああ、そういえば英智の体調は良いのだろうか。無理をしていなければ良いのだけれど。取り敢えず、今日あったらすぐに聞こう。
 これからと、そしてライブ当日のことを思って、自然と口角が上がった。


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