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 僕にとって敬人とは、一体何なのだろう。

 いつもいつも考えていた。やることがなくなった時。病室にいる時。生徒会室にいて、ぼうっとしている時。
 敬人は幼馴染みだ。それでいて、親友だと思ってる。それ以上でもそれ以下でもない。そうだと思う。

 いつも一緒にいた。敬人はいつも僕の心配をしていて、口煩く感じることもあったけれど。それもこれも僕の心配をしているからこそのものなのだから、嬉しいような、煩わしいような。そんな感覚だった。「貴様は自分を蔑ろにし過ぎだ。」「英智は充分頑張っているのだから、無理をする必要は無い。」「そんなに背負うな。」敬人の言葉に、どれ程救われたことだろう。幾度となく声をかけられ、そして僕の心は敬人によって救い上げられた。

 多分、いやきっと。僕は敬人に依存しているのだと思う。執着しているのだと、思う。
 入院中、見舞いに来てくれる敬人から聞く話は、当たり前だけどどれも僕の名前は出てこなくて。僕の知らない範囲で、敬人が他の人と話しているのかと考えると胸が傷んだ。名前が出てくる人間に嫉妬して、自分の体の弱さを呪った。敬人は誰のものでもないはずだのに、敬人を取られてしまったように感じたから。

 昔から、どこか敬人は僕の側を離れないだろうなんていう勝手な希望と、少しの自信を抱いていた。その感情に、ほんの少しだけ亀裂が入って、欠片が零れてしまうような感覚になったのを今も忘れられない。

 僕は敬人がいなければ、もしかしたらこの世に存在していないのかもしれない。敬人に助けられてばかりでなんだか情けなくなる。
 小さい時から聡い子だったから、敬人は嫌な感じを僕から受け取ったのかもしれない。
 だから僕が読みたくとも読めなかった漫画を、読みたいと呟いた漫画を書いてきてくれた。それは嬉しくもあったし、僕を繋ぐ鎖のようなものでもあった。
言い方が悪いけれど、それでも僕はそう考えてしまったんだ。敬人はそれで僕をこの天祥院の名前に縛り付けているんだと。敬人のはにかんだ笑顔に、なんとも言えない気持ちになったのをよく覚えてる。

 けれど、本当に嬉しくて、今改めて見返すと幼い頃に書いたものだから随分拙くて、それに笑みが零れる。敬人は僕を天祥院の名に縛り付けたかもしれないけれど、代わりに君という大きな存在を与えてくれた。じんと胸が熱くなる。
 嬉しかったなあ。あの時は。
 お礼に敬人の誕生日にベレー帽を送ったっけ。

 敬人は僕に夢を与えてくれた。僕は小さい頃友達を作ることが夢だった。
 敬人が友達になってくれて夢が叶った。僕は嬉しくて、敬人にそのことを言った。敬人は「これからも、英智の夢は俺が叶えるから」と言ってくれた。
 僕の夢が増えた。

 敬人はいつだって僕に夢への道を示してくれたんだ。

 でも敬人は、僕に夢を与える代わりに自分の夢を潰えした。
 この時に気が付いた。僕は勝手に天祥院に縛られていると思っていたけど、僕こそ敬人を縛り付けていたのではないかと。もしかして、敬人は僕のあの夢を、願いを覚えているのだろうか。でも、そんなことは違う学校でもできるのだ。夢ノ咲に入学する必要なんてないのだ。だのに何故この学院に入ったのか。
 僕の親に頼まれたのか。家の意向か。
 僕としては、「こいつを貶めてやろう」でも「心配だから」でも何でも良い。学院に入った理由は僕のため何じゃないかと、もしかしたらそうなんじゃないかと淡い淡い希望を抱いていた。そうじゃないことが怖くて、聞くことは出来ていない。変に臆病者な自分が恨めしい。

 敬人は、僕のことをどう思っているのだろうか。


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