電話なのだよ
初めて、彼のあんな姿を見た。人間観察を趣味にしている人間として、そして何より、帝光中時代のチームメイトとして、知らなかったことが悔しい。いくら苦手だと言っても、あのきつい練習を共に乗り越えた仲だ。
それに、彼があの姿を僕達に対して隠していた可能性が有りうるのだ。そこまで考えて、余計悲しくなった。
「はぁ、」
思わず溜め息を漏らす。
ああ、早くしないと昼休憩が終わってしまう。そう考えてトイレへ向かう足を早めた。
「大丈夫だと言っているじゃありませんか」
どこからか声が聞こえる。この声は、今の今まで僕が考えていたその人の声だ。
なんの話をしているのだろうか。
時間に対する危機感よりも好奇心の方が勝った為、声のする方へ、出来る限り気配を消しながら近寄った。電話をしているらしい。
「うっ、それは、その……認めますが……」
垣根の隙間から覗き見ることができた。
僕の影の薄さならきっと普通に聴いていてもばれないと思うけれど、念には念を入れる。
「結果ですか? ああ、昨日の。一対二ですよ。見てたら呆れられていじる……え? 絶対するじゃないですか。知ってるんですからね」
誰ですかあれ。
あんなの僕の知ってる緑間くんじゃない。なのだよとかどこに行った。まさか二重人格とか? 何処ぞの赤司くんじゃあるまいし。勘弁してくれ。
ぐるぐると余計なことばかりが頭の中を過ぎる。
にしても、電話での会話。緑間くんにしては珍しく変な言葉があった。呆れられていじるって、どういうことだろう。
そうこうしている内に話は終わっていたらしい。緑間くんがこちらへと歩いてきた。
条件反射で息を殺し、身を屈ませる。
そのまま、緑間くんは歩いて行った。
「……なんだったんだ……」