05
仁王雅治の勝手な自己嫌悪

 部活が終わった。ウェアを脱いで、部室で着替えるときに思わずため息を吐いた。片付けを三年だからという理由でいつも手伝わせて貰えない。申し訳無さ過ぎてもう発狂しそう。そういう習慣良くないと思うんだよね。この脳筋どもめ。

「仁王くん。その癖、止めた方が方が良いですよ」
「え?」
「ほら、それです。その眉間に皺を寄せる仕種」
「お、おん」
「それでは回りの人を不快にさせてしまいます。私は慣れておりますが、今の顔を女性が見たら確実に怯えてしまいますよ」
「気付かんかったわ。ありがとの」
「いえ」

 うむ。いつの間にそんな顔になってたんだろうか。そんなつもりは無かったんだけれども。……というか、俺、そんなに目つき悪い?
 反撃というか、反抗というか。ぽつりと「柳生も結構目つき悪いぜよ」と零せば、柳生の口角が上がった。こわ。

「はい。存じております。だから隠しているのです」

 こいつ言い切りやがった。
 自分も柳生のようになれたらと思うけれども、なかなか上手くいかない。はー柳生になりたい。

「只今、帰りました」

 なんだいきなり敬語になりやがったぞこいつ。そう、俺である。

「まさはる。」
「……なんすか」
「これ、洗っておいて。洗ったらお米五合で炊いて。あと洗濯干しといてね」
「……へぇい」

 ふふふ。ふっふふふ。何なんでしょうかね。実の親ですよ今の人。お前きちんと働けや。お前昼一体何してんの。まあきっと昼はずっと寝てるんだろう。平均睡眠時間九時間とかどこの小学生だし。
 なんて言葉、たとえそれが本当のことだとしても言えるはずも無い。あの人は俺にとって恐怖の対象だ。言った途端にそこら辺にあるペットボトルとか缶──勿論どちらとも未開封である──を投げ付けてくることだろう。
 そう。家の中では標準語だ。ええそうです。あの中途半端な訛りは人を寄せつけない為のもの。俺の近くにいなければ傷付くことなんてないのだから。簡単に言うと周りの人の為を思って俺は柳曰く仁王語を使っているのである。
 あれこの仁王語って柳に馬鹿にされてんのか?

「面倒じゃ……」

 この洗濯物の量。おかしいうちは五人家族だったはずなのだが。確実に七人くらいの洗濯物だろこれ。早く干して宿題やって風呂に入って寝よう。うんそうしよう。

「あ、ムーミン」

 時計を確認してテレビのリモコンに手を伸ばす。最近はまっていることは楽しいムーミン一家を見ること。スナフキンが格好良いんだ。なんて。

「……?」

 携帯がなった。確認してみるとどうやらメールのようである。俺にくるとは珍しいな。明日は雨か。幸村からか。何が起きた幸村よ。
 要約すると「ヤッホー今暇? ご飯食べた?」である。まだ6時半過ぎだぞうちの平均的な夕食の時刻は八時半から九時以降じゃ。取り敢えずまだ食ってなかとだけ返信。
 って返信はやいな幸村。携帯を閉じた瞬間にまたなった。「よっしゃ飯行くぞ」。

「あー……」

 行きたい。超行きたい。でもなあ。

 頭の片隅に母親の顔がぼんやりと浮かんでくる。
あれ? どんな顔だったっけか。まあ大方「ダメに決まってるでしょう。弟ほったらかしてアンタ馬鹿じゃないの?この腐れ外道が!」こんな感じの返事が帰ってくるに違いない。容易に想像できた自分も悲しい。
 また今度埋め合わせする旨を入れて断りのメールを送った。かなしい。また今度があると良いけどな!

 今日行けなかったらまた明日会話で取り残される。つか何で昨日来なかったんだよとか言われそうで怖い。

「……ねよ」

 仁王雅治の一日はこうして終わるのである。




|| / Bkm




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -