「あふ」
欠伸が零れた。授業中はあんなにも眠いのに、何故授業が終わると眠気がどこかへ吹っ飛ぶのだろう。いやでも、それでも授業が終わるのは嬉しいことだ。やっと午前の授業が全て終わった。清々しい。
「弁当、か」
そう、弁当。普通中学と言えば弁当ではなく給食なのだろうに。これが私立の力か。一回位給食って食べてみたいなあ。なんてことを考えながら廊下を歩く。なお俺は弁当を持っていない。作るの面倒だし。こうして改めて考えてみると不健康な人間だなぁ、なんて。
「仁王!」
「どしたブンちゃん」
「いや俺な、今日早弁しちまってよ。昼飯ねぇんだ。だから仁王と一緒に食おうかと思ってさぁ」
「にゃるほろの。いいぜよ。変わりにオレンジジュース奢ってもらうがの」
「ぇ」
「冗談じゃき。オレンジジュース位自分で買えるぜよ」
「お前の冗談笑えねーって」
ああ。今日は屋上で焼肉定食を食べようと思っていたのだけれど。まあ、いいか。
「はーっ食った食った!」
なんて言う丸井の声を聞いたのはもう二時間近く前だ。あいつ午後の授業で思い切り寝ていやがった。ふざけんな。
「もう起きんしゃいブンちゃん。掃除の時間ナリ」
「あと十分……」
もぞもぞと身動きをする丸井はまるで芋虫のようでちょっと引いた。己の欲望に忠実すぎやしないだろうか。「そんときゃもうSHRじゃ」ため息混じりに言ってやれば、ようやっと顔を上げた。
「あーこんな所にイカソーメン……」
「よう見てみんしゃい。そりゃ俺の髪の毛ぜよ」
こいつ怖い。目がまじだった。もしや俺の髪って結構イカソーメンなのか? 醤油を持ち歩いた方が良いのだろうか。思考がぶれた。丸井許すまじ。
「……あー、なんか一気に目ぇ覚めたわ」
「そりゃ良かったの」
「良くねっつの」
不貞腐れた顔をしおってからに。なめとんのかわれ。
「じゃ、おまんセンセイに叱られればええんじゃ」
「何だよお前ぇ……見た目不良の癖に中身超真面目とかどんなギャップだよ」
「所謂ギャップ萌ゆうやつか」
「お前なんぞに萌えるか」
「……酷いぜよブンちゃん。今の台詞で俺のハートがブロークン」
「きも」
「ふぇぇ」
「うえ」
「……」
何で毎回俺が寝起き悪いこいつ起こしてるんだか。なんて事を考えていたら先生によくやったぞ仁王。とかそんな事を言われた。褒めるのは良いけど頭撫でるのは流石に止めてほしい。おいそこニヤニヤすんなこら加藤この野郎。
「じゃあ俺先に掃除場所行ってくるぜよ」
聞こえてないかもしれんがんなもん知らん。どうせ叱られんのはブンちゃんじゃからの。
「プリッ」