「では、お先に失礼します」
「お疲れさん」
恭しく一礼してから柳生比呂士は扉に手をかけた。毎度の事ながらすごく……丁寧です……。俺は正直幸村よりも柳よりも、レギュラーの中で柳生が一番こわい。年相応にはしゃいでいる姿をあまり見たことがないからだ。紳士という仮面を被っているせいで中身を見たことは無かった。
まあ怒られる時は滅茶苦茶怖いんですがね! さっきとは違う意味で!
「あー!」
「うるさいぞ赤也。どうした」
「柳さん! 聞いてくださいよぉ! 仁王先輩が俺のこと苛めるんス!」
えっもしかして朝のことだろうか。朝のことを放課後の今、今ぶり返すのかあいつは。俺のことが嫌いなのか。いやこれは多分本当だから言うだけ自分にダメージが来るので黙ろう。
「それは何時もの事だろう」
「そうじゃないんすよ! あーもうっ!」
大きな音を立てながら赤也がロッカーを閉めた。流石に苛めすぎてしまったのだろうか。心の中で一人反省会をして、謝罪を口にしながら俺は黙々と着替えていた。
「仁王くん。貴方また切原くんをからかったのですか?」
「……てへ」
ため息を吐かれた。ですよね。知ってた。
「ほら、私も一緒に行って差し上げますから。謝りましょう」
「……わかったぜよ」
柳生に背中を押され、赤也の方へ体の向きを変えた。赤也が視界に俺のことを捉えたらしい。羨ましい程の大きな目が鋭くなった。
「なんスか仁王先輩。また後輩苛めっすか」
「こら赤也」
「いや、朝のこと、その、すまんかったな」
「え、あ、はい。わかってんならいッスよ」
「……所で、仁王くんは切原くんに一体何といったのですか?」
「『今日の俺の弁当のおかず…何だったかのう、あ、思い出した。ワカメじゃ』」
「完全に貴方が悪いじゃないですか」
「プピーナ」
「ほら赤也。仁王も謝ったんだ。許してやれ」
「いや、その……ハイっす」
「すまんのぉ」
最大限の勇気を振り絞った。よくやったぞ俺。聞こえてるか解からないがまあ良いだろう。こういうものは自分の気持ちが大切なのである。
丁度俺も着替え終わったところだし。柳生と一緒に行こうかな。