「んで、話ちなんじゃ？」
「あ、ああ…」
部室で向かい合って立つ。正直言うと座りたいんだが。座ったら駄目かなあとぼんやり考えた。駄目かな。
「丸井に、ついてだ。」
丸井。よりにもよって丸井か。今絶賛仲良くなろうキャンペーン中だろうに。何ぞしたんだあいつ。
「丸井が、どうしたんじゃ」
「あ、いや、そのだな……」
真田がこんなに吃っているのも珍しい。そんなに俺と話したくないのか。俺に話したくないなら話しかけなきゃ良いものを。なんか申し訳ない。
「……あいつがなんかやらかしたんか」
「まあ、そんなところだな……」
「いきなりおまんに積極的に声をかけるようになったことか」
「！ 何故、それを…」
「丸井に、相談された」
「俺に、ついてか」
「おん」
さてどう言えば良いものか。つかなんで皆俺なんかに相談してくるんじゃ。丸井はまあまだわかる。同じクラスじゃし、まあまあ勝手に仲は良いと思ってるし。でもなんで真田。もう一回。
なんで真田。
「丸井な、あいつ、『真田と仲良くしたい』っつってな」
「丸井が？」
「おん。」
まあ正確には『俺は真田が嫌いなのかわからない。嫌いかどうかはっきりさせたいんだ』。だけどな。よのなか嘘の中にも人の為につく嘘が、人を喜ばせる為の嘘があるんじゃい。
こういうものは、嘘の中にほんとうを混ぜるのが良いのだ。
「じゃが、」
「……なんだ」
「あいつは、おまんに嫌われとるんじゃないかと悩んどった」
「な、」
「だから、俺に相談しに来たんじゃ」
それきり、真田は喋らなくなってまった。あり？ おかしいな。というか沈黙気まずいんですけどあの真田さん。そして早くしないとムーミンが始まってしまう。
「おっ、俺はてっきり丸井には嫌われているとばかり……！」
「そんなこと考えとるからいつまでたっても眉間から皺が取れないんじゃ」
「ぐ」
「ははは」
やばい言い過ぎたか。まあええか。真田は結構ズバズバ言える。
「はー……」
俺は何もない床に腰を下ろした。汚いぞと真田に言われたが特に気にしない。だって座りたかったんじゃもん。うわ可愛くない。
暫くしない内に、真田も俺の隣に腰を下ろした。俺が声真似をして汚いぞと言ったら真田に頭を叩かれた。痛い。
「仁王、お前のお陰で吹っ切れた。これで遠慮無く丸井にガツンと言えるな！」
いやそういう意味じゃないんですけれども。つか言うって何をだ。好みのタイプでも言うのか。
「む、なんだその顔は。」
「何でもないぜよ」
「そうか。それならば良い」
す、と立ち上がる真田。それと同時に大声で笑い出しやがった。煩い。一体俺が何をしたと言うんだ。何dB出ているんだろう。流石の肺活量である。
「ふう」
一分程笑い続けた後、真田は一息漏らしこう言った。
「丸井には言いたいことが多々あったからな。俺が気に食わん行動も多い。」
おい。それは流石に言い過ぎじゃないか。そう思いながらも、また真田が笑いだした。楽しそうなので何も言わないでおいた。ちらりと時計を見る。ああ、結局今日のムーミンは間に合わなかった。これは結構ショックキングな出来事だ。
「最後、真田のテンション怖かったのう」
最終下校時刻を過ぎてまで笑い続ける始末。どうすれば良いのかまったくわからなかった俺は取り敢えず放置して帰る準備をしていた。
そして、何かが動いたように思って、本能のまま窓の外を見る。特徴的な赤髪。走り去って行く後ろ姿。
あれは丸井だった。良く見ると向こうにジャッカルもいた。荷物をジャッカルに持たせていたということは、何かを取ってこようとしていたのだろうか。確かに手には何か持っていたように思える。
「……笑い声、聞こえとった可能性大じゃな」
俺は込み上げる笑いをこらえられなかった。だって真田の笑い方は超面白かったんだもん。