朝練が終わってから結構な時間が経った。正確には今既に昼休憩が終わったところである。
「……」
やっぱり、丸井は真田のことが嫌いだったのか。
黒板を見ながらぼんやりとそんなことを考える。そう言われてみれば、そんな素振りをしていた気がしなくもない。
欠伸を噛み締めながら、これからのことを考えて、俺は睡魔に身を委ねた。
「ファイトーッ」
もう授業も終わり午後練習になった。練習を活気づける為の声だしが耳に留まる。一年も流石に慣れてきたようで、球拾いしながらも精一杯声を出していた。
「な、仁王」
「? どうしたんじゃブンちゃん」
「……話すことあっから、今日一緒に帰ろうぜ」
「おん」
なんだ? 流れで一緒に帰ることはあったけれど、こうして誘われるのは初めてだ。一体何を言われるのだろうか。俺はまたぐるぐると考えていた。
「お待たせっ」
「何分待たせるつもりじゃ」
「いやぁまさか比呂士に捕まるとは思わなくてよ! わりぃな」
「ああ柳生け……ま、柳生ならええナリ」
「お前ほんと比呂士好きな」
「それ程でも」
「褒めてねぇ」
「ありゃ」
たわいない会話に花を咲かせ、帰路を歩き続ける。正直早く帰らないとまた母が煩いのだが。この辺は仕方あるまい。友人の危機だ。だから家から正反対の道を歩いていても仕方ない。
「俺、さ」
「……?」
「自分でも良く、わかんねんだよ。」
「何が」
「……なんで、俺は真田が嫌いなのか。」
「……ほうか」
「うん。もしかしたら、周りの奴に感化されてるだけかもしんねぇ。」
「おん、」
「嫌いだなんだとか言っても、実は好きになりたいのかもしれない」
「おん。」
「もう、どうすれば良いのか解らなくて……」
「そんなこと、」
俺に、聞くんじゃねえよ。俺に言ってなんになるっていうんだ。頼らないでくれ。やめてくれ。でも、今俺がそれを丸井に言ったらどうなる。軽蔑されて、口を聞いてくれなくなるかもしれない。それだけは嫌だ。じゃあ俺は、俺はどう答えれば良い?
「そんな、こと…」
何を言っている仁王雅治。落ち着け。
「俺は、その気持ちよく分かるぜよ。」
ああ、言ってしまった。でも良いんだこれで。実際、本当にこう考えたことあるんだから良い。
「そういう時は、自分から友好的に接してみるとええよ。それで本当に無理だったら丸井は真田のことが嫌い。二人での時間若しくは会話を楽しく過ごせたら、過ごせることができたら『真田が嫌い』っちゅー感情は嘘っぱち。これで、俺は確かめとるぜよ」
マシンガントークとはこういうことをいうのかだろうか。いやそんなはずはない。反語。これは俺が個人的な意見を言っただけだ。他の人間と意見が違っていたからといって何を恥じる。
「……そうか、そんな考え方、あったんだな」
日が傾いて紅く染まっている空を見上げ、とても穏やかに笑う丸井。だ、誰だお前……本当に丸井か?
「……他にもなんかあったら、なんでも言いんしゃい」
ああ、言ってしまった。でも良いんだ。俺なんかが役に立つならそれで、良い。