07
仁王雅治の勝手な自己嫌悪

「あっちー!」

 部活の休憩時間。俺の隣に丸井が来た。どすんと音を立てて座る。どこから出たんだ今の音。
 因みに、遅刻はギリギリせんかった。良かった。良かった。心の底から思う。良かった。

「お前暑くねぇの?」
「あいあむ寒がり」
「ああ成る程」

 そんな、取り留めのない会話が少しの間続いた。ここではたと気づく。今日はなかなか丸井の口数が少ないぞ。

「なあ、仁王」
「なんじゃブンちゃん。宿題の心配け?」
「いやちげぇよ。あの……真田のこと、どう思ってんのかなって」
「…………は」

 今こいつは何て言った。
 今、こいつは、なんて。
 真田をどう思っているかとな?

「すまん、ちょ、もっぺん言ってくれんかのう」
「あ、いやだからさ。真田だよ真田。真田のことをどう思ってるかって話」

 やばいぞこいつ。目が本気だ。背筋がぞわりと粟立ったように感じる。どうしたんだ。

「あ、え、う……」

 返事を、しなければ。えっでもこれなんて返すのが正解なの? これは俺ライバルだと思われてるの? どういうことだってばよ。

「ブ、ブンちゃんはどうなんじゃ?」
「俺?」
「おん」

 こ、この返しならどうだ。

「俺の考えなんかどうでも良いだろ。早くお前の考え聞かせろっつってんの。」
「わお」

 チャイムの音が響く。予鈴だ。

「俺は、なんとも言えん」

 なんだこの中途半端な回答は。丸井は眉間に皺を寄せていた。しまった。嫌われたかもしれない。
 そっか、そうだよな。と呟いた丸井の顔が忘れられない。どこか諦めたような、哀しそうな笑顔。

「おまん真田のこと、その、す、好きなんか……?」
「は?」
「え?」

 意を決して聞いてみたのに何だこの反応。顔熱くなってきたぞどうしてくれる。
 明後日の方を向きながら丸井は肩の力を抜いた。ように見える。

「あー、成る程」

 頭をガリガリと掻き、軽く溜め息をつく丸井。え、何その意味深な溜め息。どんな意味がこもっているのかは知らない。

「俺が言いたいのはな? LOVEとLIKEの違いだよ。恋愛対象としてじゃなくて、人間として好きかどうかっての。」
「あ、やっと理解できたぜよ。成る程。いやよかった。まさかブンちゃんがそっち系になってしまったのかなんて俺も変なことを考えるようになっちまったもんじゃのう」
「やめろよお前さあ。そういうの好きな奴らが俺らの事でなんか妄想とかしてるらしいからマジで。」
「……俺、『へたれ攻めって良いよね!』とか言われたんじゃけど」
「……気をつけろよ」

 おん。心の中で返事をした。恐怖しかねえな。

「で、真田のことどう思ってんの?」

畜生誘導されなかったか。強い信念持ってやがる。

「そうじゃの、俺は結構、」
 苦手じゃ。

 ありのままという訳ではないがたまに。本当にたまにだぞ! そう思うことを口にする。でも基本的にはすき。あいつは真面目な良いやつ。
 ひとりで勝手に頷いていると「あ、そ」と言われた。雑。


|| / Bkm




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