06.監督
「仕事の前に監督に入部届を渡してこい。樺地、案内してやれ」
「ウス」
『わっ!?…いつの間に跡部部長の横に…』
「ウス」
「うわ〜…大きい人。跡部君のボディーガードさん?あれ?でもユニフォーム着てる…」
「あぁ、そういえば紗耶香も知らねえのか。コイツは樺地だ」
「因みに樺地は翠達一年生と同い年やで」
「年下だったんだ!よろしくね樺地君!」
「ウ、ウス…」
華村先輩が握手を求めると、それに少し頬を染めて握手をした樺地君。………もしや、先輩に惚れたのか君は。なんかわかりやすくて可愛いじゃないか。
「鹿野さんも……よろしく…お願いします…」
『?!…う、うん!よろしく!』
な、なんだ…ウスしか言わないから喋れないかと思ってたけど、一応喋れるのか…。びっくりした。
と云うことで、今度は樺地君の後を着いていき、監督に入部届を持って行く事になりました。
監督ってどこに居るんだろう…部室とかトレーニングルームの施設内かな?とか思いながら着いていくと、だいぶテニスコートから離れて行き、校舎まで来てしまった。そして音楽室の隣の教室つまりは音楽準備室、先生達が使う部屋についた。樺地君がドアをノックをすると奥から「…入れ」と、ダンディな声が聞こえてくる。
「……ウス」
『…?………あ、先に入れって?』
「ウス」
ドアを開けてから樺地君は、何故か入らなかったので、何事かと思えば先に行けということだったみたいだ。私が入ってから後ろからついてきた。
…なんというか…ここの音楽準備室は、準備室なのに広めでゴージャスなんだな。流石氷帝というところか。…けど机の辺りは資料やら何やらで結構散らかっている。そしてその資料で散らかっている机にいたダンディな声の持ち主、多分あれが監督なんだろう。見た目もダンディで凄くセレブ臭がする先生だ。
「…ん?…樺地か。どうした」
「マネージャー…入部希望者…です」
「ほう、そうか」
「跡部さんは…入部許可をだしました」
「うむ」
樺地君が渡した入部届を受け取って、何やら考えだす監督さん。
「鹿野君…君は何故、テニス部のマネージャーになろうと思ったのかな?」
『えっ?……な、何故って言われてましても…』
ちょっ…いきなりそんな質問はないっすよ先生。…ここは正直にありのままを伝えておくべきなのかな…。でも侑士に強制的に入部届にサインを書かされたから仕方なく、なんて言っても納得はしないだろうな…。……………………いや、まてよ。納得しなくても良くないか?監督からの許可が降りませんでした、ってことで入部しなくてすむんじゃないの?これは。いや…でもな…
「鹿野さんは…忍足さんのいとこ…です」
「ほう、そうなのか。それならいいだろう」
『え』
え?マジっすか?え?
いとこってだけっすよ先生!
もうちょい考えて下さいよ!!
樺地君ももっと他に説明してくれ!
『か、監督さん?もうちょっと冷静に…』
「………」
スッ
『………………え?』
急に2本指を真っ直ぐと上にかざした監督さん。
な、何する気だ。まさか暴力なのか?たった2本の指で私を叩くとかそういうあれですか。暴力はいけませんよ先生。てゆうか馬鹿なんですか。何なんですか急に。
そして少し溜めた後、ビシッという効果音がつきそうなぐらいキレよく腕を振り下ろす監督さん。
「……いってよし!」
『………?……はぁ…』
思わずポカーンとなってしまったが、とりあえず何か行って良いらしいです。…もう訳わからん。早く帰りたい。帰って寝たい。
『あ…ありがとうございます…失礼しました』
頭を下げてからサッと音楽準備室を出る。
………あ、監督さんの名前聞くの忘れてた。…まいっか後で。
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