04.強制入部
放課後です。今だに友達が出来ずに放課後です。ちくしょう。
唯一の友達候補であろう日吉も、放課後になるとすぐに帰ってしまった。
隣の席の女子に話かけようとも思ったけど、すでに隣の子と仲良さげでした。私はその間に割って入る勇気もないチキン野郎です。
とりあえず東京人は予想以上冷たかった。
…まあいいや。とりあえず侑士がテニスコート来いて言うてたし行かないと。
『つーかテニスコートってどこや…』
あ、そう言えば入学式のパンフに校内案内のってたよね。それ見れば良いんじゃん。えーっと、テニスコートは…
───────……‥
『…やっと着いた…。庭だけで何坪あるんやココ。迷うっちゅーねん…』
はぁ…。とりあえず先に侑士探さないとな。
「あの…様に会えるなんて嬉しすぎるんだけどっ写メとか撮ったらダメかなー?」
「…先輩とか格好いいよねー。私ファンになっちゃった」
……てゆーか何かさっきから、この辺女子が多い。その子達は大半、今みたいな会話をすれ違いざまにしている。そしてみんなコート方面に向かっていく。…よく見たらコートのフェンスの外側一体に、その女子達の集まりが出来ているようだ。
『あ、おった。おーい侑士ー』
「おー、やっと来たな」
『久し振りやなぁ』
そしてコートの入り口付近にいた侑士を発見。私に気づいた侑士は、手を振りながらこっちに来た。
「あぁホンマ久し振りやな。今朝電話で喋ったけど、顔合わすんは一年ぶりくらいやし」
『ん。てか、なんや前より髪もっさりしてんか?ちゃんと散髪しとんの?はよ切りぃや。3000円あげるから近所の床屋で切ってきいや。なっ!』
「おかんか。どんだけ切らせたいねん。…せやな、あれやわ。翠は一年前より大人っぽくなった。見た目だけやけどな」
『見た目だけってなんやねんコラ。まぁ今日から高校生やし、そりゃあ1年も見なかったら変わるやろ。背も伸びたし』
「あぁー…せやけどまだチビやで?」
『チビちゃうしっ!そのうち侑士なんか追い越したるわ!…んで、ここ来たんはええけど何するんや?見学か?』
「俺よりでかなってどないすんねん。…まあそんなとこやな。とりあえずこっちや、案内したる」
『ん?どっちや』
とりあえずついていった先は部室で、ついてすぐ中にあるソファーに座ったあと、侑士は「ちょっと待っとき」と言い外に行ってしまった。
そして待っている間、私はボーッとしながら部室内を観察する。…うーん…やっぱり金持ち学校だよなぁ氷帝って。
部室内に高そうなソファーと、パソコンやエアコンもあるし、カーペットまで敷いてある。しかもあれは間違いなく新品だし、最新式だし、特にカーペットは絶対高級品なんだろうな。土足で上に乗ってるとなんだか申し訳無くて、今すぐ靴を脱いでしまいたい衝動に駆られてしまう。
それと、部室に着くまでに色々部屋があったけど…トレーニングルームみたいなの?あれって必要あるのかな。部活っていうのは、トレーニングしにきてる訳だから必要ないと思うんだけど。まぁ文化部はしらんけども、運動部は絶対いらないルームでしょ。
「おい」
『へ?…っどわぁ!!?』
なんかくだらない考え事してる間に誰か入ってきていたみたいだ。突然耳元で声が聞こえたので振り向いたら、むっちゃ目の前に赤髪のおかっぱさんがいた。なので思わず変な叫び声を上げてソファーに倒れ込んでしまう。そして、それを見たおかっぱさんは吹き出して笑い、私の頭をぽんぽんと叩いてきた。
「ぶっ…おまっ…ビビり過ぎっ…くっははっ」
『…な、なんでそんな笑うんすか。普通あんなに近くに居たら誰でもビックリすると思いますけど』
「だって面白かったし」
今度はくしゃくしゃに頭を撫でてくる赤髪のおかっぱさん。…髪の毛ボサボサんなるからやめてくんないかな…。つかこの人むっちゃ可愛い。…年上かな?いや、同い年?ちょっと待てよ、その前に性別は…男なのか?まさか女子?
「もしかしてお前があれだろ?侑士のいとこってやつ」
『え、あぁ、はい。いとこ…ですけど(なんで知ってんだろ)』
「俺、向日岳人。侑士のダブルスのパートナー」
『へぇーダブルスの。私は鹿野翠です。……あ、じゃあレギュラーっすか?』
「そ、レギュラー。因みに一応言っとくけど侑士と同い年だからな。お前は後輩」
『…そうですか』
なんか心読まれてた。割と鋭いんだな…。…うーん、性別は喋り方からして男か。…まぁ男子テニス部の部室に来たんだし、普通は男子か。
そうして、しばらく向日先輩とお喋りしてくうちに仲良くなってしまった。なんというか、向日先輩ってノリが女子っぽいから話しやすいかもしれない。
女友達とか多そうだし、誰か紹介してくれないかな。
「へー、四天宝寺の忍足ともいとこか。ん?でも名字違くね?」
『あぁ…私の母の旧姓は忍足だから、侑士と謙也はウチの母の兄弟の息子なんじゃないっすかね。まあいとこですし』
「ふーん…まあ普通に考えりぁそーだよな。つーか、鹿野はテニス部に入んの?」
『え、入んないっすよ。私呼ばれて来ただけなんで』
「ん?でもあいつはお前が入るって…」
「コラ岳人、ネタバレ早すぎや。まだ翠には言うてないっちゅーねん」
「げっ、侑士いつの間に。悪ぃもう言っちまった」
「げってなんやげって。…まぁそういう事や、翠は今日からテニス部のマネージャーな。あ、ここ名前書いて」
『ちょっ待てや、どーゆうことやねん。私何も聞いとらんのやけど。てゆーかマネージャーとかやりたないし』
いつの間にか帰ってきた侑士は、目の前のテーブルの上に入部届の紙を置き、スッと突き出してきた。ご丁寧にペンまで添えて名前欄を指差す。
「だって、言うたらそうやってやりたないって絶対言うと思ってん。せから黙っとってんけど…、岳人のせいで台無しやわ」
「だから悪ぃって言ってんじゃん」
『台無しも何も、他に入りたい部活あるかもしれへんのにそんな…』
「他に入りたい部活あったんか?」
『や、まだ無いけど』
「ならええやん。とりあえずサインしぃや。あぁ、そんでな」
『よくないわ、強制か』
それから侑士はテニス部の内部事情を話し始める。
今は二年生がほぼレギュラーで、去年はほぼ一年生レギュラーで全国準優勝だったとか、部員は200人以上いるとか、マネージャーが1人いるけど、準レギュラーと平部員の世話まではやっぱり厳しいから、私には主に準レギュラーと平部員のサポートをして手伝って欲しいらしいのです。って、ちょっと待てよ…って事は200人以上の人数を私1人でサポートしろってことだよね。一年生で入りたてのマネージャーにそんなことやらせるなんて、鬼畜すぎやしないか。
「1人いるマネージャー…華村紗耶香って子なんやけどな、一年の時は仕事も全部ひとりでやっとったんやけど…やっぱ大変やろなって事になって、そしたらちょうど翠が氷帝に来るって聞いたし、ほなら入部させてやってもらおうかって話になってん」
『………長い説明をどうもありがとう。せやから私の意志関係なしに入部させる気なんか?えーコラ丸眼鏡。今すぐそれ片手でバキーッいったろか』
「そう怒らんといてや。まあ人助けやと思って入ってくれへんか?」
『…人助けねぇ。つーか、部長さんとか監督さんには話しつけとんのか?それが先やろ』
「監督にはまだやけど部長には話しつけとんで。あいつ「良いんじゃねーの」って一言で許可しよったわ」
『ちょっ…そんな簡単に許可してええんか部長さん』
「まあアイツ紗耶香以外興味ねぇからな。ミーハーじゃなけりゃ誰でも良いんじゃね?」
「せやな。あと俺のいとこやし、ええと思ったんとちゃうか」
『ミーハーって。アイドルとかいるわけでもないのに、そんなん湧くわけ………あ、』
そういえば、テニスコートのフェンスにへばり付いてキャアキャア言ってた女子達がいっぱいいたな…。もしかしてテニス部に有名なアイドルでもいるんだろうか。…だったらミーハーが湧いても仕方ないかもしれない。
「わかったやろ?ウチに入りたい女子はぎょーさんおんねん。前に一度ああいう子達何人か入部させてんけど、仕事はしないわずっとキャーキャー言うて煩いわで即退部や。唯一、ミーハー女子に混じってしっかりやってた華村さんが残ってんけど…まぁええ子やで。しかも美少女やねん。目なんかくりっとしててな、髪とか何か全体的にふわっとしとって、理想の美脚やし、小っさい可愛い子なんや」
『途中から華村さんの話しに切り替わっとんで…。華村さんの事そない好きなんか?めっちゃキモイで』
「侑士マジキモイ」
「2人してキモイ言うな。ああ好きや。めっちゃ好きやねん。愛しとんねん」
『うわぁ…マジでウザキモっすねアイツ』
「あぁ、ウザキモイなアイツ」
prev /
next