放課後。
ウチのクラスは明日の海原祭への準備が済んだので、普段通りに下校…しようと思ったんですが、実は今年もテニス部は劇をするみたいなので、ちょっとチラ見してから帰ろうかなぁと思ってホールに向かってます。
今日は最後の打ち合わせみたいで、テニス部は30分だけ今の時間貸し切って使うらしいのです。だから本当にチラッとしか見れないんですよね…まぁ、本番見に行くし良いんですけど。
それに何やるのか聞いてないし、それだけみれれば良いかな。



『失礼しまーす…』



会場のドアを開けて覗いてみると、舞台の方にテニス部の人達が集まってるのが見える。



「赤也また逃げたの?」

「さっきまで舞台裏にいましたが、いつの間にかいなくなっていました」

「ったくアイツ、お姫様役が嫌だからって毎回逃げ回るなよぃ」

「練習時間もちょっとしかないんやし、誰か探しにいかせるぜよ」

「役を任されていない奴らには一応探しに行かせたが、…せめてあと10分しかまてないぞ」

「もう皆で手分けして探すしかねぇだろ。つーか流石に衣装着たままでこっからでないだろうしな」

「赤也がまだホール内にいる確率、88%」





……何やら取り込み中のようだ。邪魔しちゃ悪いし、やっぱり明日のお楽しみにしとこうかな。…仕方ない、帰ろ。

ゆっくりと会場のドアをしめて出口へ向かう。
するとその途中のドアが、少し開いて居るのに気づいた。
なんとなく中を確認したら、演劇部の衣装らしきものがずらっと並んでる。
衣装室か何かかな、…とりあえず閉めておこう。
そして閉めようとしのだが、何となく違和感がしたのでもう一度中を確認する。
そういえばなんで電気ついたまま何だろう。消し忘れかな?


ドサササッ

「うわっ!」

『…ん?』


何か今声が…そしてなんか落ちてきたような音もしたな…。
誰かいるのかな?



「いってー…んだよちくしょー…ダンボールかよ。ちゃんと整理しろよな演劇部」



あ、この声赤也くん?なんでこんな所に…

奥をよく見たら、衣装影に隠れてスカートがふわふわと動いてるのがわかった。
…ってスカート?



『赤也くん…?』

「えっ!?」

ガンッ



私が呼びかけると、勢いよく立ち上がって衣装を掛ける鉄の棒に頭をぶつけてしまった。



「いっつーっ…なんだよもー!」

『…大丈夫?』

「せ、先輩!何でここにいるんスか!?」



急に慌て出した赤也くんは、さっと衣装の山に逃げてしまう。



「俺を見ないでください!!先輩には一番見られたくないんすよ!」

『えーなんで?可愛いじゃない。それって白雪姫?』

「か…可愛いって言うな!」

『ご、ごめん…』

「…っすんません。だって見られたくなくって…」



うー…と唸りだした赤也くんは、そこから動こうとしない。
そんなに見られるの嫌なのか…可愛いな。そっか、今年は白雪姫なんだ。赤也くんの白雪姫絶対見に行こう。



『(もしかしてさっきの、赤也くんの事で話し合いしてたのか)…みんな探してるよ?』

「だって嫌なんスもん。…なんで俺がいっつもお姫様役なんスか…」

『…うーん、何でだろうね』

「だいたい、幸村部長はいっつも唐突過ぎなんスよ。最初は丸井先輩が白雪姫やってたんスけど、急にやっぱり俺が良いとか言い出して」

『あー…まぁ幸村くんだし、しょうがないよね』

「王子が真田副部長なのも嫌だし、セリフとか覚えんのダルいし、ドレス着て人前でるのとかマジありえねーし」

『…そっか』


真田君が王子様か…なんか笑っちゃうのは何でだろう。って失礼か。まあ、格好いいとはおもうけど。


『でも私は、テニス部の劇楽しみにしてるんだけどな』

「……」

『赤也くんの白雪姫見たいな』

「……嫌っス。先輩は見に来なくて良いっスから。絶対」

『絶対って…見たいのに』



うーん、どうしたもんか。
赤也くんが動かないと練習も出来ないだろうしな。誰か呼んで来た方が良いかな。



「………つーか何で晴乃先輩ここにいるんスか」

『え?…あぁ、ちょっと見学しようかなって来たら取り込み中だったみたいだから帰ろうとしてたんだけど、ここのドアが開いてるのが気になって見てみたら赤也くんがいたってわけ』

「ふーん…」

『…やっぱり戻らないとダメだよ。私誰かに伝えてから帰るね』

「だ、ダメッす!」

『ダメじゃないの。時間無いらしいし、早く言いにいかないと』

「嫌だ!先輩の馬鹿!俺は嫌だ!」
ガシッ
『馬鹿って…もー…だめだよ』



私の腕をガッチリ掴んでイヤイヤと首を横に振ってだだをこねる赤也くん。……どうしようかなマジで。こんな可愛い事されたらいけないじゃないか。襲うぞちくしょー



『…わかった。じゃあ赤也くんだけ特別』

「え?」

『ウチの甘味処に来たら一品タダにしてあげる』

「…タダっすか…?」

『うん、その代わり私が接客しないとタダには出来ないから、入店したら声かけてね。これは赤也くんだけ特別だから、他の人には内緒だよ?』

「特別…」

『だから早く皆のとこに戻って練習してきなよ。ね?』



私がそう言うと少しの間黙っていたが、行こうよ、と言えばうんと頷いたのでそのまま掴んでいた腕を引いて部屋から出た。


「晴乃先輩」

『何?』

「海原祭…誰かと廻る予定とか決まってますか?…やっぱり柳先輩とっスか?」

『え…いや、何でそこで柳くんなのか分かんないけど、まだ夕陽ちゃんと若菜ちゃんからの誘いもないし予定はないかな。てゆーか多分教室内から出ないと思うよ』

「ダメッスよそんなのっ。なら俺と一緒に廻ってください」

『えー?でも私となんかより、友達と廻る方が楽しいんじゃない?』

「先輩とが良いんス。じゃないと俺戻らないッスから」



そう言うと赤也くんは急に立ち止まってそこから動こうとしなくなった。グッと引っ張ってみたがビクともしなくて、私もそこから動けない。
……困ったな。コレはうんと言わなきゃアッチにいけないじゃないか…



『…………ま…まぁ、赤也くんがそれで良いなら良いんだけど…』

「マジっすか!?よっしゃ!じゃあ…午後から休憩時間にしとくっスから、先輩も午後休憩にしてくださいね!絶対っすよ!」

『うん、わかった』

108/112
prevnext
bkm

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -