柳side



体育の授業が終わり、着替えを済ませて教室に戻ってきた小波は、疲れきった様子で、戻ってそうそう机に伏せた。

一言『ダメだ…もう死ぬ』と言い、教科書を取り出し頭を隠せる位置におき、二時限目はそのまま寝るような体制になる。
俺は「そんなに辛いならまた保健室に行くぞ。教室で寝るのは色々と良くない」と声を掛けたが返事が無かった。

よく見ると肩が規則正しく上下に揺れているので、もう寝てしまったのだろう。

今のたった5秒の間に寝るとは凄いな。
赤也とはれるぐらいの睡眠能力だ。…寝つきが悪いと聞いていたが、寧ろ良すぎるぐらいだな。


『すぅ…』

「…(本当は起こした方が良いのだが…今日は多めにみてやるか…)」


そしてその後の小波は、授業が始まっても起きる気配は全く無かった。



「えー…またー?」
「まだやってんのこれー…」
「…さん可哀相じゃん…」



「…?」



授業が始まってから15分を過ぎた頃、後ろの席の女子が何やら不自然に小声で話す声が耳にとまった。



「これ昨日も回してたよねー」
「てゆーか完璧イジメだよねこれ」
「私こーゆうの嫌い。どうせ木崎さん達が回してるんでしょ。ファンクラブでのアレでさぁ…アイツイジメろとか言ってそうじゃん」
「わかるー…この前なんかさぁ…」
「しーっ声大きいよっ。前の小波さんと柳くんに聞こえちゃうって」
「やばっさっさと他にまわし…あ」

「これは何だ?」



俺の勘が、今の会話でイジメに関する事なのではないかと察したので、後ろを振り返ってその女子の1人が持っていた紙切れを素早く奪う。



「や、柳くん…えっ…あの、いやぁ」

「えーっと…」

「な、何だって言われても…ねぇ」



「おーい、どうした柳。なにかあったのか?」

「いえ、何でも無いです」



急に立った俺に気づいて声をかけてきた先生だったが、何でもないといえば「そうか」とだけ言い授業に戻る。

俺はそのまま席につき紙切れを確認した。

内容は、小波を無視しろだの、協力をしろだの書いてある。最後に赤字で女子だけに回せとまで書いてあった。
このクラスの女子の半数は、珍しくテニス部のファンではでない。これを回した奴はそういう女子を仲間に入れようとして回していたのだろう。



『……うぅー…もうケーキはいらないよ……ばかー…』

「…(呑気なやつだな…)」



隣で寝言を言う小波を見て、ため息が出そうになる。
さっきは良く先生に見つからなかったものだ。

…しかし、こういった紙切れが回っているという事は、クラス内に元締めがいる可能性があるな。あとで後ろの女子達に探りを入れてみるか。



『やなぎくんの…おにー…あほー…』

「…何で俺なんだ」



寝言にイラッとしたので此方に顔を向けた時にでこピンをしたら、少しの間痛そうに唸っていたがすぐにへらっとした顔に戻った。

…本当にコイツは呑気だな。




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